Title: 【祝・総合評価20万突破!】 隠れ転生勇者 ~チートスキルと勇者ジョブを隠して第二の人生を楽しんでやる!~ ============================================================ ## 001_召喚されたのに転生してしまった ## ■■■■■■■■■■ 001_召喚されたのに転生してしまった ■■■■■■■■■■ それは夢のようだった。 白い空間で作りもののような美女と遭遇した俺は、彼女の提案を拒否した。 「あいつらと一緒なら行かない」 はっきりとした拒絶に、無表情だった彼女は顔を引きつらせた。 「貴方だけ別の場所にするわ。それで我慢して」 「……分かった」 どうせ拒否しても彼女の意志には逆らえないと思っていたが、言ってみるものだな。 すぐに俺の意識は途切れた。 あれが夢なのか、それとも現実なのか。 今の俺の置かれた状況を見れば、なんとなく判断できるだろう。 周囲は木々が生い茂り、誰も居ない。 「森……だな」 まさに繁茂だ。 あの神―――多分神は、約束を守った。 だけど、森の中はないだろ。 足元にリュック―――背嚢があった。 中には硬いパン、葉に包まれた干し肉、水筒、短剣、毛布、木のコップ、木の皿、小さいタオル、他にも数点が入っていた。 茶色い革袋の中にはこの世界の通貨と思われる金貨のようなものが入っていたが、これがどれだけの価値があるのかさっぱり分からない。 「こんなことなら、もう少しこの世界のことを聞いておくんだった」 後の祭りというやつだな。 とりあえずお金と思われるものはあるから、これでしばらく凌げということだろうか。 まずは人里を探さないといけないだろう。 文明の「ぶ」の字も感じられない森の中で生きていけるほど俺はサバイバーではない。 「ここはどこで、どっちへ行けばいいんだ?」 さっぱり分からない。しょうがないから、南へ行こうと思う。 「と言っても、南はどっちだ?」 わずかに木漏れ日が差し込んでいるから、太陽と同じ恒星はあると思う。 だけど地球と同じように太陽が東から昇り、西へ沈むのだろうか? 「さっぱり分からない」 方角のことを考えるのは止めて、近くに落ちていた枝で進む方向を決める。 草の上に静かに倒れた枝が示す方向へ俺は歩いた。 「おおおっ」 幸いなことにすぐに森から抜けることができた。 森の前には街道があり、草が少なく轍が残っていることからこの道を誰かが使っていることを示している。 「問題は右へ行くべきか、それとも左か」 人生の分かれ道だ。気合を入れて考えたが結論は出ない。 「枝君に聞いてみるか」 杖代わりに持ってきた枝に、再び運を任せて……。 「よし、右に進もう」 右に進むと喉が渇いているのを感じた。背嚢から水筒を出して飲もうと思ったが、水は入ってなかった。 「おいおい、意味ないだろ……」 やけに軽いと思っていたら、中身が入ってないとか神は不親切だな。 しょうがないから先に進んでいると、小さな橋があった。木造のかなり簡素で手すりも柵もない軟そうな見た目の橋だ。 幅3メートルほどの小川にかかった橋に足を踏み入れ、真ん中で止まって小川を見下ろす。透明度の高そうな水の中に、小魚が見えた。 小魚が居るということは飲めそうだ。橋を渡ってちょっとした段差を下りて、手を水の中に入れた。冷たい。 軽く手をゆすいで、手をお椀のようにして水を掬って飲んだ。なかなか美味い水だ。これで腹を壊さなければ万々歳。水筒に水を入れて、立ち上がった時にふと見えた水面に映る自分の姿に違和感を覚えた。 「はい?」 そこに映るのは俺? 慌ててしゃがみこみ、水面に自分の顔を映す。 西洋人ぽく以前の面影はまったく見られない。セミロングの髪の色は白髪……ではなく銀髪。目の色も金色になっている。 「そう言えば、服だって制服じゃなかったっけ……」 今さらながら、自分の容姿がまったく別人のものになっていることに気づいた。 あの神は勇者召喚の儀式が行われたから、俺のクラス全員が召喚されたと言っていた。 召喚だから転移だと思っていたが、どうやら俺は別の体に憑依または転生してしまったようだ。 「えらく可愛くしてくれたんだな……」 以前はそこまで目立つ容姿ではなかったが、今の顔はかなり可愛い。まるで女の子だ。 「ちょっと待て!」 俺は股間にあるものを確認した。 「あった~」 まさか女の子になってしまったのかと思ったが、ちゃんとあった。 ただし、175センチあった俺の背丈は、160センチもないだろう。元々華奢な体つきだったが、華奢さはさらに増した感じだ。容姿だけなら胸のない女の子である。 「容姿まで変わるとはな……しかもここまで」 これはこの世界でやり直せという天啓か。 元の世界では失敗して、悲惨な高校生活を送っていた。これからは心機一転、楽しい人生を送れということだと受け取ろう。 「どうせ元の世界に帰ることができない。この世界でやり直すしかないんだ」 そうと決まれば、名前を考えよう。 前の名前は嫌いではなかったけど、この容姿に合わない。 「考えるまでもないか。俺の名前はトーイ。トーイだ」 好きなMMORPGで俺が作ったキャラの名前がトーイだった。 もうあのゲームをプレイできないのは残念だが、人生をやり直す代償と考えれば諦めもつく。 「よし、行くか」 再び街道を進むと、後ろから馬車がやって来た。5台が一団になったものだ。 「あぁ……そんなことが……」 俺は今、猛烈に感動している! その馬車と馬に乗った人の一団の中に、ケモ耳少女が居るのである! 街道の端に寄って、そのケモ耳少女を食い入るように見た。ネコの獣人だと思うが、柔らかそうな三角の耳が俺を誘っている。 思わず手がわきわきしていた。 「なっ!? ……え、エルフだと」 耳が長く尖っている女性は、まるで芸術のような美しさだ。 ガン見していたら、睨まれてしまった。 俺はこの世界が気に入った。 ケモ耳にエルフ、もしかしたらもっと違う種族も居るかもしれない。こんな夢のある世界があったのか。あの神様も先に教えておいてくれてもいいだろうに! 感動の余韻が消えることはないが、感傷に浸っていたら馬車の一団はかなり遠くへ行ってしまっていた。 街道を進もうとしたところで喧騒が聞こえてきた。 なんと先ほどの一団が、誰かに襲われているじゃないか。 「えぇ……俺、戦えないよ?」 だからと言って、放置すればケモ耳少女やエルフ美人さんが殺されてしまうかもしれない。 「どうしたらいい? どうしたらケモ耳少女とエルフ美人さんを助けられるんだ!?」 ―――ピコンッ。 「うおっ!? ……おう?」 目の前にまるでゲームのような画面が現れた。 その裏側を見ようとしたが、画面も動いた。 「ふんっ!」 高速で移動したが、画面もついてきた。どうやら常に俺から一定の場所にあるようだ。 【ジョブ】旅人Lv1 【スキル】健脚(微) 【ユニークスキル】詳細鑑定(微) アイテムボックス(微) 思うに、この画面はゲームでいうところの、ステータス画面なんだろう。 ゲーム脳を舐めてもらってはいけないよ。こういったものを使いこなすのが、ゲーマーというものなんだからね。 「詳細鑑定!」 俺は【ジョブ】を鑑定した。 ▼詳細鑑定結果▼ ジョブ : ジョブは一定の条件を満たすと、新しいジョブに転職可能。転職はステータス画面を開いて念じるだけで行える。現在の転職可能ジョブは、村人、料理人、商人、運搬人、復讐者、転生勇者。 やっぱり詳細鑑定は色々教えてくれるスキルだった。 一部、不穏なジョブが含まれているが、それは俺が背負った業なのかもしれない。 それは置いておき、次はアイテムボックスを使いたいと念じると、画面が切り替わった。 ルービックキューブの面のように小さな四角が集まった画面が現れた。 小さな四角にアイテムを収納できるらしい。4段×5行だから、20個のアイテムが収納できるようだ。 上の2段10枠が埋まっている。そこにアイテムが入っているということだろう。 アイテムを1つ1つ詳細鑑定してみたが、見ていくにつれ頬が緩んでいく。 「えーっと、これらのアイテムを装備するには……」 アイテムボックス画面の上に、クイック装備欄が8枠出てきた。 頭、両耳、首、胴、両腕、両足、右手、左手の8カ所分がセットできる。 ここにアイテムをセットしておけば、念じるだけでそのアイテムが装備できる。 アイテムは剣が3種類、盾が2種類、胸当が2種類、ポーションが3種類あった。 3種類の剣は簡単に言うと、とても強い剣、強い剣、普通の剣だ。俺は迷わずとても強い剣をクイック装備欄にセットしたいと念じた。 アイテムボックスの1枠が空になり、クイック装備欄にその剣が表示された。 同じように胸当と盾もクイック装備欄にセットしようとしたが、胸当はすんなりセットできたが、盾はセットできなかった。 「どういうことだ?」 不思議に思った俺は、詳細鑑定でその原因を探った。 「なるほど……装備した剣が両手剣だから、盾は持てないわけか」 考えてみれば当然の理由だが、最初だからこういうこともある。 「おっと、いけない。俺は助けに行くところだったんだ」 目的を忘れてついステータス画面の使い方を検証してしまった。 俺は反省しつつ、喧騒へ向かって走り出す。 --- ## 002_おパンツください ## ■■■■■■■■■■ 002_おパンツください ■■■■■■■■■■ 喧騒の原因は、盗賊が馬車の一行を襲っていたものだった。 詳細鑑定で盗賊たちのステータスを確認したから、間違いない。 これで心置きなくケモ耳少女とエルフ美人を助けられる! 「うおーっ」 ズシャッ。 背後からの一撃を浴びた盗賊は、その頭が胴体から離れた。 盗賊の首から大量の血が噴き出し、それが俺にかかる。血というものは、こんなに熱いと感じるものなのか。 大量の返り血を浴びた俺だが、今はそれどころではない。 無我夢中で俺は剣を振った。その度に俺の剣が盗賊の血を吸って真っ赤に彩られていく。 「はぁはぁはぁ……」 気づいたら盗賊は全滅していた。俺は5人くらい倒しただろうか? 夢中だったから、細かい数字は覚えていない。 「うっ……うげぇーっ」 考えたら、人どころかネズミだって殺したことなかった。 胃の中のものが全部出てきた。 異世界に来たその日に、人殺しなんてハードすぎるだろ。 涙目で何度も嘔吐した。もう胃の中のものは何もない。胃液さえない。 地面に座り込んで休憩していると、見覚えのあるエルフ美人さんが俺の前で立ち止まった。 「助勢感謝する」 「え……あ……いえ、お怪我はありませんか?」 感謝されるのは慣れてない。思わず、何を言われたか理解できなかった。 この世界では、このように感謝されることが普通にあるのか。 しかしせっかくのエルフ美人さんとの会話なのに、吐いていたら決まらないな……。 「数人怪我をしたが、死人は居ない。貴殿の助勢のおかげだ」 「俺なんて大したことしてないでしょ」 5人くらいしか殺してないし。吐いてるし……。 「いや、貴殿が盗賊の頭を倒してくれたおかげで、盗賊たちが浮足立った。そのおかげでこの程度の被害で済んだ。感謝している」 よく分からないが、俺が最初に斬り殺した盗賊が頭だったようだ。エルフ美人さんが頻りに感謝している。 「自己紹介が遅れた。私はルイネーザと言う。この一団の護衛たちを束ねている」 「俺はトーイです」 「俺……?」 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない。トーイ殿か。いい名だ」 なんだか誤魔化した? そうか、今の俺は可愛らしい顔をしている。もしかしたら女の子だと思っていたから、俺と聞いて戸惑った感じか。 この馬車の一団はゴルテオという商人の商隊で、ルイネーザさんはその護衛隊長。 ルイネーザさんがゴルテオさんに会ってほしいと言うから、ついていった。 「ゴルテオ様にお会いする前に、トーイ殿の姿を何とかするべきだな」 「ん?」 「返り血を盛大に浴びているぞ」 「あ……」 俺の姿はかなり酷い状態らしい。 すでに血が服に染みついていて、洗っても全部は落ちないだろうとルイネーザさんは言う。 近くの小川で護衛の人たちが血を洗い流している。小さな川だから、水が赤く染まっている。 俺も顔と頭の血を洗い流し、ほとんど乾いている服の血は我慢する。 護衛の人たちも返り血を浴びているけど、俺のように盛大に血だらけというわけではない。護衛をするだけあって、殺し慣れているんだろう。 「この布で剣の血糊を拭くといい」 ルイネーザさんは使い古された布をくれた。 護衛の人たちのやっていることを見様見真似で、剣を小川で洗って水気を拭き取る。最後に何かの油を塗ってまた拭き取る。油も貸してくれた。 「ありがとうございました」 「いや、いい。剣を使うなら、そういった古布を持っているといいぞ」 「古い布ですか……」 俺、こっちの世界に来てまだ数時間ですから、古い布なんて持ってませんよ。 「通常は着古した服や下着を使う。良い布でなくてもいいのだ。その布も私の下着だったものだ」 「えっ……」 これ……おパ、おパ、おパ、おパ、おパ、おパンツ!? ルイネーザさんのおパンツ様なの!? ルイネーザさんのおパンツ様……。ゴクリッ。 「おパ……ツ……ださ……」 「ん、何か言ったか?」 うぐっ……思わず、おパンツくださいと言いそうになった。危ない! そんなこと言ったら変態じゃないか。俺はそんな変態……でも、使い古しのこれなら……。あ……回収するのね……。しょぼん。 「こっちへ来てくれ。ゴルテオ様がお待ちだ」 「……はい」 トボトボとルイネーザさんについて行く。馬車の前で椅子に座った50代のダンディなオジサマがゴルテオさんらしい。 「私はしがない商人をしておりますゴルテオと申します。この度はご助勢いただき、本当にありがとうございました」 手を差し出された。握手かな。シェイクハンド。握手で正解だったようだ。 「いえ、たまたま居合わせただけですから、お気になさらず。あ、俺はトーイといいます。よろしくお願いします」 ゴルテオさんはニコリとほほ笑んだ。 「こちらは些少ですが、お納めください」 いきなり茶色の革袋を差し出されて、ちょっとびっくりした。多分、お金だよね。 「いえ、そういうためにしたわけじゃないので……」 「助けられてお礼もしなかったとなれば、ゴルテオの沽券に関わりますから遠慮なくお納めください」 ぐいぐい来る。 「それじゃあ、遠慮なくいただきます」 ずしりと重い革袋を背嚢にしまい、椅子から立ち上がろうとする。 「トーイ様は、これからどちらへ?」 浮かした腰を椅子に戻す。 「どこと言われると困るのですが、宛てのない旅の途中です」 「ほうほう。それではこの先の町まで馬車でお送りしましょう」 これは楽をできるチャンスだけど、この人の言葉を厚意とだけ受け取っていいのだろうか。 俺を騙して何かしようと思っているかもしれない。世の中、都合の良い話なんてないんだ。 「いえ、歩いて行きますので」 「そう仰らずに、旅の話でも聞かせてください」 断っても誘われる。嫌な感じはないけど、居心地いいとも言えない。 結局押し切られてしまった俺は、ゴルテオさんの馬車に一緒に乗ることになった。 この商隊は4台が幌馬車になっていて、1台だけ屋根のある人が乗るための馬車だ。 当然ながらゴルテオさんは屋根ありの馬車に乗っている。必然として俺もその馬車に乗る。 各馬車の御者席には御者と護衛が1人ずつ乗り、この馬車だけは屋根にも護衛が乗っている。それと馬に乗った護衛が4人。 これがどれほどの規模の商隊か分からないけど、物々しい。 「この先には王都に次ぐ大都市のケルニッフィがあります」 「初めて行くのですが、どんな都市なのですか?」 「ダンジョンがあるのですよ」 ダンジョンッ!? お、落ちつけ俺。ダンジョンと言っても、俺が考えているものと同じとは限らないぞ。 「どうかしましたか?」 「あ、いえ、なんでもありません。……そのダンジョンの特徴を教えてもらってもいいですか?」 「おや、ダンジョンに興味がおありのようですね」 ゴルテオさんは「ふふふ」と不敵に笑う。 「ないと言えば嘘になりますので……」 うんうんと頷いたゴルテオさんが口を開いた。 「そのダンジョンは『バルダーク迷宮』と言われておりまして、多種多様のモンスターが生息しています。モンスターを倒すと死体は消滅し、アイテムがドロップします。そして稀にレアドロップがあるのですよ。レアアイテムは高値で売れますよ」 ふむふむ。ゲームっぽい内容だ。 「ダンジョンに入るには、どうしたらいいのですか?」 「探索者ギルドという組織があります。そこで登録すれば、誰でも入れますよ」 なるほど、なるほど。探索者になればいいんだね。 「そうそう。ダンジョンに入るなら、仲間と一緒のほうがいいですよ」 「1人ではかなり危険ということですね」 「はい、その通りです。探索者たちはモンスターや罠を発見するスカウト、モンスターを引き付けるタンク、モンスターを攻撃するアタッカー、回復を担当するヒーラーなどが居ないと探索がままならないのです」 パーティーを編成しろってことだね。 「今のところ仲間は……」 「仲間とはジョブとスキルを教え合う仲ですからね、信用できる仲間に出会うのは大変なことでしょう。報酬は均等割りが一般的ですから、メンバーが多ければ多い程収入が減ります」 俺が言い淀んでいると、そんなことを教えてくれた。 「そうだ、奴隷を購入されてはいかがですか?」 「ど、奴隷ですか……?」 異世界物のマストな設定だけど、この世界にも奴隷制度があるんだ。 「奴隷に興味がおありのようですね」 「な、ないっですよ……」 美人の奴隷を購入して、いいことをする夢を何度か見たことはある。だけど、実際に人間を売り買いするのはさすがに気が引ける。 「気をつけてくださいよ。奴隷でも粗雑に扱うと、法に触れますからね」 「そ、そうなんですか?」 法に触れるって、どういうこと? 「奴隷にも人権があります。契約にないことを要求することはできません。たとえば、性行為を了承してない奴隷を無理やり手籠めにしますと、普通に強姦罪で捕まりますよ」 俺が思っていた奴隷制度とは少し違うようだ。人権があり、契約次第でしてもらえることに制限があるんだね。 ゴルテオさんから色々教えてもらった。俺も日本のことをぼかしながら話した。 お互いに面白い話が聞けて良かったはずだ。 今向かっているケルニッフィは人口20万人程の都市。 産業はダンジョン関連になる。ダンジョンから産出されるアイテムを仕入れる商人、探索者を相手に武器や防具、便利なアイテムを売る商人、そういった商人に商品を卸す職人たち。 探索者は1万から2万人居るらしいけど、ダンジョンから帰ってこない探索者も多いから、人数にかなりの誤差があるらしい。 物価を聞くふりして、通貨のことも聞いた。 1グリル銅貨、10グリル白銅貨、100グリル銀貨、1000グリル金貨、1万グリル白金貨、10万グリル黒金貨の6種類の硬貨がある。 パン1個が8グリル、リンゴ1個も8グリル、お手頃な定食は80グリル、安い剣が2000グリル、宿代は安ければ300グリル、最低限のサービスを受けたいなら600グリルが必要だとか。 聞く限りは1グリルで10円くらいの価値だと思う。 --- ## 003_異世界は不便が常識 ## ■■■■■■■■■■ 003_異世界は不便が常識 ■■■■■■■■■■ 夕方近くにケルニッフィに到着し、宿まで送ってもらった。 「ありがとうございました。おかげで助かりました」 「いえいえ。こちらのほうが助けていただきました」 こういう挨拶って切り上げるタイミングが分からないんだよな……。 「奴隷を購入する時は、私の店にお立ち寄りください。良い奴隷を揃えていますよ」 ゴルテオさんの店はダンジョン関連の商品や衣食住に関するもの、そして奴隷まで扱っているそうだ。日本で言うところのデパートのように、なんでも売っているらしい。 奴隷に興味はないし、先立つものもそんなにあるわけじゃない。 そう言えば、ゴルテオさんからもらったお金があったっけ。神様にもらったお金を含めてどれだけあるかな。 神様のほうは硬貨の種類が分からず、放置した。ゴルテオさんにもらったほうも同じく硬貨の価値がわからず、そのまましまい込んだ。共に後から確認しよう。 「俺に奴隷が買えますかね……」 買う気ないから、やんわりとお断り。 「もちろんです。それに奴隷も色々な用途がありますので、はい」 にこやかに奴隷の説明をしてくれるゴルテオさんだけど、ここは宿屋の前だから邪魔になっちゃうよ。とは言えないんだよな。 奴隷で一番安いのは、労働力にならない老人らしい。金額は1万グリルくらい。10万円で人が買えるなんてあり得ないよ。 次に安いのが幼い子供。こちらも労働力として期待ができないからだそうだ。でも容姿が良いと、男女問わず値が上がる。性的な需要があるからだ。ロリ・ショタは触ったらいけないんだぞ! ちなみに、俺はロリコンではない。可愛いとは思うが、普通に同年代かちょっと年上がいい。 若くて容姿の良い奴隷で性的なことがOKだと、かなり値が張るらしい。最低でも50万グリル。高い場合はそれこそ1000万グリルを超えるらしい。金額に大きな幅があるけど、どの道俺には高嶺の花という感じだね。 だけどいつか綺麗なお姉さんとムフフなことをしてみたい。俺だって男だからね。もちろん奴隷じゃないよ。自由恋愛推奨派ですから。 「おっと長話になってしまいました。お許しください」 「いえ、大変有意義な話を聞かせていただきました」 これでお別れと思ったところに、ゴルテオさんが何かを差し出してきた。 カードのようなそれは、5枚あった。 「これは?」 「レコードカードですよ。知りませんか?」 知りませんよ。なんですか、これ? 「盗賊たちのレコードカードです。死んだ時に出てくるものですよ」 えぇ……死んだらこんなものが出てくるの? なんでも人間が死んだら、このカードが胸から出てくるのだとか。これは個人情報が記載されていて、偽造はできないらしい。その情報に犯罪歴も含まれているから、盗賊を討伐したらこのレコードカードを政庁に持っていくといくばくかのお金がもらえるらしい。 「トーイ様が倒された盗賊のレコードカードは、トーイ様のものです。お持ちください」 「……ありがとうございます」 なんというか、異世界なんだと実感するものだ。 ゴルテオさんたちに手を振って別れ、宿屋に入る。清潔そうで感じの良い宿だ。 「いらっしゃいませ」 「しばらく御厄介になります」 「はいはい。伺っております」 伺っている? どういうこと? 「1泊いくらになりますか?」 「お代はすでに1カ月分頂いております」 「へ?」 「ゴルテオ商会の方から頂いております。はい」 ゴルテオさんが宿の前で奴隷の話をしている時、ルイネーザさんが宿の中に入って何か話をしていた。このために奴隷の話を持ち出して引き止めたのか。なかなか粋なことをしてくれる。 こういうことをする気遣いができる人だから、あれだけの商隊を率いて商売ができるんだろうな。 気遣いか……俺には無理だな。その場の雰囲気が読めないから、あんな目にあわされていたんだ。 「そうですか……それじゃあ、ありがたく泊まらせてもらいます」 「はい。こちらへどうぞ」 俺はゴルテオさんのご厚意に甘えることにした。宿の人に代金を返してこいと言うわけにもいかないからね。 案内された部屋は3階にあり、角部屋だった。窓は東と南側に1個ずつある。角部屋ならではだね。 窓は木戸でガラスはない。この町のどの家の窓にもガラスは入っていない。ガラスは高級品なのか、それともガラス自体がないか。 「ふー。とりあえず、野宿は免れた。それだけでも上々だ」 窓を開けて外の光景を見ようと思ったが、すでに日が沈んでしまい真っ暗だ。見える範囲に街灯はなく、この宿の前には篝火が焚かれている。 10畳くらいの部屋にベッドと机と椅子があるだけで、灯りは明るくないランプが1つだけ。 この部屋いくらするんだろうか? ゴルテオさんの話だと安い宿で300グリルだけど、そんな部屋を用意するとは思えない。 タダで泊まらせてもらっているが、安宿だとゴルテオさんの評価が下がる。最高級ではなくても、普通以上なんだと思う。 「そう言えば、風呂はあるのかな? 返り血を浴びたから最低でもシャワーは浴びたいんだけど」 部屋の出入り口以外の扉が2つあるから、開けてみる。 「ここは……」 床が50センチくらい高くなっていて、穴が開いている。木桶が穴の下にある。多分だけどトイレだ。 「シャワートイレとまでは言わないが、せめて水洗にしてくれ……」 そこで俺は気づいてしまった。このトイレ、紙がない。 「ま、マジか……」 端に何かの葉が置いてある。あれで拭けと言うのか……。 「異世界、ヤベーよ」 もう1つの扉を開ける。シャワールームではなく、洗面所のような感じの場所だった。 この部屋には風呂どころかシャワーさえない。あのトイレを見た時、なんとなくそんな気はしていた。ショックだが、少しだけ心構えができていたからダメージは少ない。 「これ、水が出そうなんだけど、どうやって使うのかな?」 ちょっと触ってみたが、水は出ない。しょうがないから1階のフロントで聞こう。 「あの、風呂とかないですか?」 「お風呂ですか? そういったものは、貴族様の屋敷にあるようですが、一般的なお宅や当店のような宿にはないですね……」 従業員さんが困った顔をしている。俺は非常識なことを聞いているのかもしれない。恥をかいたということで、1つも2つも同じだ。 「体を拭くのはどうしたら?」 「部屋の洗面所で水が出ますから、それを使ってください」 「その洗面所はどうやって使えば……?」 従業員はちょっと意外そうな顔をしたが、丁寧に教えてくれた。 ド田舎から出てきた田舎者とでも思われたか。まあそう思ってもらったほうが、色々聞けるからいいけどさ。 洗面台はマジックアイテムで、魔石をはめると動くらしい。洗面台に石のようなものが置いてあったけど、それが魔石なんだってさ。 部屋に戻って桶に水を溜めて、タオルを濡らし硬く絞って体を拭く。 「うぅ……寒い……」 水で体を拭くのは寒く、ぶるりと震えた。 「人肌が恋しい」 人肌の温かさを知らないけどさ。 体を拭いたついでに脱いだ服を洗濯だ。 「こ、こいつ……しつこい!」 服にこびりついた血の汚れは、擦っても擦っても落ちない。 「石鹸があると少しは違うんだろうけど」 石鹸はないと言われた。そもそも石鹸のことを知らなかった。 本当に不便な世界に来てしまったものだ。 「あまり血は取れなかったけど、仕方がない」 部屋にあった洗濯ロープを張って、そこに服を干した。 さっさと着替えて……あれ? 俺、着替え持っていたっけ? 背嚢をがさごそ……ない。 「はっ!? アイテムボックス!」 に服が入っているわけなく……。 「神様よぅ……」 着替え、どうしようか……。 おいおい、洗濯しちゃったじゃん。 俺はそそくさとベッドに潜り込んだ。 「あ、ご飯……」 この宿は朝晩の食事つき。でもこの姿で食堂に行くわけにはいかない。 しょうがない硬いパンと干し肉を食べよう。 背嚢から取り出して、ガリッガリッとパンを齧る。水が進む。 口直しに干し肉を齧る。水が進む。 「パンは硬いし、干し肉は塩辛い。初日から最悪だ」 そうだ、お金を確認しておかないとな。 パンと干し肉を背嚢に戻して、神様とゴルテオさんからもらった2つの革袋を取り出す。 シーツを被りながらベッドの上に中身をジャラジャラと出す。 神様のほうは1000グリル金貨が10枚と1万グリル白金貨が9枚。合計で10万グリル。 ゴルテオさんのほうは1000グリル金貨が10枚、1万グリル白金貨が9枚、10万グリル黒金貨が4枚。合計で50万グリル。 「神様がケチなのか、ゴルテオさんが気前がいいのか……」 後者だと思っておこう。 「とりあえず600万円相当だから、かなりの大金だ。服くらい何着でも買えそうだな」 他に必要だと思うものはなんだろうか? 剣と胸当はある。片手剣なら盾も使える。当面はこれでなんとかなるだろう。 そう言えばゴルテオさんは、奴隷が50万グリルで買えると言っていたな。 まさかゴルテオさんにもらったこの金で、ゴルテオさんの店で奴隷を買えということか。 ゴルテオさんも食えない人だ。 --- ## 004_その老婆、買います! ## ■■■■■■■■■■ 004_その老婆、買います! ■■■■■■■■■■ 転生2日目、俺は干していた服を着た。 「冷たいな……」 半乾きだった。 「着ていれば、体温で乾くか?」 背嚢もアイテムボックスにしまい、俺は金貨が5枚入った革袋だけポケットに入れて部屋を出た。 1階の食堂に入って、入り口のところにあるメニューを読む。 なぜかこの世界の文字が読める。異世界転生特典というやつだろうか。 「お客さん、何になさるかね」 食堂に入ると給仕のおばさんが居た。 「Aセットをお願いします」 Aセットはメインが肉のセットだ。昨夜食べそこなったから、ガッツリ食いたい。 席について待っていると、トレイに載せられた食事が運ばれてきた。 「おお~」 クリームシチューのような白いスープと肉とパンだけだが、肉がデカい。パンがデカい。 肉は300グラムくらいありそうだ。パンも俺の顔くらいある。これは食べ応えがあるぞ! パンは神様にもらったものよりも柔らかい。フランスパンくらいの硬さだ。これをスープにつけて頬張る。 「お、意外といけるな」 やや味が薄い気もしないではないが、これはこれで美味しい。 次は分厚いステーキだ。ちょっと硬くナイフが入りにくいが、切れないほどではない。 「肉汁が少ない赤身か。ガッツリ食べる時は赤身のほうがありがたいものだ」 若い俺でも脂がのった高級肉は胃にもたれるからね。 味は塩とこれはなんだろう? ハーブなのか、ちょっとさっぱりとした感じになっている。これも悪くない。 「げふー……食った、食った」 さすがにこんなに食べると、腹がはちきれそうだ。 朝からこんなにガッツリ食うとは、異世界というのは凄いところだ。 「あらまぁ、全部食べたのかね」 先程の給仕のおばさんだ。 「食べたらダメでした?」 「いいよ。でも女の子は大概残すんだけどね。うふふふ」 女の子ではないんですけど。目くじらを立てることでもないから言わないけどさ。 「あの、この町で服が買える店はありますか?」 「それなら宿を出て右に行って、3つ目の十字路を左に行くと5軒目にあるよ」 「ありがとうございます。行ってみます」 ここでチップをあげたほうが良かったんだろうけど、持っているお金は金貨しかない。さすがに1万円相当のチップとなると手が動かなかった。どうせ俺は小心者だよ。 宿を出ておばさんの言うように道を進むと、服屋があった。窓がないから看板がなかったら通り過ぎていたよ。 ただし……女物の服屋だった。あのおばさん、俺のことを完全に女の子認定しているようだ。 男物の服屋を聞いたよ、ええ、聞いたさ。 ただ聞くだけでは気まずいから、男でも着られそうな服を1着購入した。それでも女性物の服だから着る機会はないだろう。 そして男物の服屋で服を5着、下着を10枚、靴下を10足購入した。 あと雑貨屋でタオル10枚とちょっとした桶を購入。さすがに疲れた。 広場のベンチに座って休憩しているといい匂いが漂ってきた。 鼻をスンスンさせて、その匂いにつられて屋台の前に立つ。祭りの屋台などで売っているイカの姿焼きだ。 この匂いは醤油じゃないが、香ばしい良い匂いだ。 「お、可愛いお嬢ちゃんだ。池イカの姿焼きはどうだい? 今姿焼きを買ってくれたら、ゲソ焼きをサービスしちゃうよ」 サービスしてくれるのか。この容姿も悪くない。どの世界でも可愛いは正義ということだな。 「おじさん、姿焼きを1つもらうよ」 「あいよ、白銅貨3枚だぜ」 この池イカは日本のスルメイカにそっくりだけど、池で獲れるのか? 近くに池があるのかな? 池イカの姿焼きを受け取って、先ほどのベンチに座った。 「ちょっと生臭いけど、美味いな」 池イカの生臭さというよりは、タレが洗練されてない感じかな。でも美味い。 このタレ、醤油じゃないけど醤油っぽい。 このタレを買えないかな。塩などの調味料も欲しい。 そんなことを考えながら、美味しく池イカの姿焼きとゲソ焼きを交互に食べた。朝ご飯をあれだけ食べた後だけど、食べ切った。なんか懐かしい味なんだよね。でも夜ご飯が食べられないくらいに腹が膨れた。 タレはどこで買えるのかな? おじさんに聞いてみるか。 「おじさん。そのタレ何て言うの?」 「このタレが気になるのか? うーん、本当は教えないんだけど、お嬢ちゃんは可愛いから特別に教えちゃおうかな」 「本当に! ありがとう、おじさん!」 とても可愛らしく演技してみた。情報料と考えれば、これくらいなんてことはない。 「このタレはバーガンを使っているんだ」 「バーガン?」 「バーガンはググルトを潰して発酵させた調味料だな」 「ググルト?」 「なんだ、ググルトを知らないのか」 「うん」 ちょっと上目遣いで教えてほしそうにする。こういう時、可愛い容姿は武器になる。 「教えてやるから、そんな目で見るなよ」 「ありがとう!」 ググルトというのは、豆らしい。大豆かな。 どこで買えるか聞いてみる。 「ははは。ググルトを買うよりバーガンを買ったほうが早いぞ。そもそも、素人じゃググルトからバーガンなんて作れないし」 そりゃそうか。納得だ。 「この先にあるゴルテオ商会で買えるぜ」 ゴルテオさんの店か。一度は顔を出さないといけないと思っていたが、思った以上に早くなってしまったな。 おじさんにお礼を言って、もう1本池イカの姿焼きを買うと、ゲソ焼きをまたサービスしてくれた。また寄らせてもらうからね。 人目のないところで池イカの姿焼きとゲソ焼きをアイテムボックスに収納した。こういうのを誰かに見られるのは、避けるべきとラノベで読んだ記憶がある。用心が過ぎるかもしれないけどね。 ゴルテオさんの店は大きい。ショーウィンドウまである。ガラスはこの世界にもあったようだ。 これだけ大きな店しかガラスを使ってないところを見ると、かなり高級品なんだろう。 「すみません。バーガンとググルトはありますか?」 近くに居た店員に聞いたら、案内された。 1リットルくらい入りそうな壺のような容器に入ったものがバーガンで、ググルトは大豆じゃなかった。ググルトは10センチほどのサヤに小さな粒がびっしりと詰まっている豆だ。かなり細かいから数十個は入っている。 バーガンを1瓶、ググルトを1袋購入。 ググルトはこの町でよく食べられているもので乾燥させると塩味が強くなるらしく、塩の代わりに乾燥粉末を使うことも多いそうだ。 さらに発酵させるとバーガンになるらしいが、細かい製法は店員も知らず教えてもらえなかった。当然だな。 一応、生でも食べられるが、アクがかなりきついらしい。食べるなら水に数日漬けてから湯がいてアクを十分に取るのが一般的らしい。 そう言えば、宿のスープの中に小さな豆が入っていた。あれがググルトなのだろう。 他に大きめの布の袋を10枚買った。サンタクロースの袋のように大きなものだ。その袋の1枚にバーガンとググルトを入れていると、声をかけられた。 「昨日ぶりですね。ようこそおいでくださいました」 「こんにちは、ゴルテオさん。図々しくもやってきました」 「歓迎しますよ、トーイ様」 ゴルテオさんは相変わらず厭味のない笑みを浮かべている。 「こちらへどうぞ」 「え、あ、俺は」 「まあまあ」 バーガンとググルトを買ったから帰ろうと思っていたんだけど、断り切れず地下へ案内された。 「ここは……」 「奴隷を扱っているフロアになります」 檻の中に人が入れられている。こうやって見ると、やっぱり気分がいいものではない。 「奴隷はお気に召しませんか?」 「どうもこういうのは……」 「そういう方も少ないですが、居ります。ですが、奴隷制度は必要なものです。ここに居る者の多くは、奴隷にならなければ餓死していた者たちです」 「餓死……」 「食うに困る家は多いのです。奴隷になれば主人が衣食住を保障します。それに家族も一時的にですが、お金が手に入ります。そのお金で借金を返済したり、食べ物を購入したり、一時的かもしれませんが生活できるようになるのです」 ゴルテオさんはさらに続ける。 「犯罪者も奴隷にしますが、こちらは刑の執行が主な目的です。鉱山や戦場などの過酷な場所で、働かされます」 この世界では犯罪者に更生を促さないそうだ。罪を犯したら、それに見合った刑罰が与えられる。それが犯罪奴隷制度だとゴルテオさんは言う。 犯罪奴隷は罪の重さによって、強制労働させられる。窃盗などの軽いものだと、町中の清掃活動くらいで済むけど、強盗や強姦、そして殺人ともなると鉱山や戦場で使い潰されるそうだ。 奴隷は行動を制限できる支配奴隷と、行動を制限しない任意奴隷に分けられる。犯罪奴隷は前者で、借金奴隷は後者になる。 任意奴隷でも主人の情報を他言しないとかの制限は与えられるそうだ。 支配奴隷と任意奴隷は共に奴隷期間が設定されている。 支配奴隷の場合は刑期だけど、任意奴隷は借金返済期間だ。 「こちらの奴隷は、支配奴隷でございます。お値段は1万グリルになります」 俺が一点を見つめて奴隷のことを考えていたら、視線の先にいた奴隷が気に入ったと勘違いされたようだ。 「あ、いえ俺は……」 そこで気づいたが、その奴隷は老婆だった。顔に深いシワがある老人で、物語で描かれるようなシワくちゃな老婆の魔女かと思うような顔をしている。 失礼かと思ったが、いつお迎えが来ても不思議ではない人を気に入るわけない。よく考えてほしいものだ。 「この者は魔法使いなのですが、魔法を暴走させてしまったことで支配奴隷になりました」 こんな老婆でも支配奴隷にするのか。過酷な場所に投入したら、あっと言う間にぽっくりいきそうじゃないか。 それはともかく、魔法使いだからまさに魔女だった。 「この年齢では先がありません。ですからお値打ちになっております」 買った翌日に昇天しても、1万グリルだから諦めがつくわけか。いやいや1万グリルは10万円だぞ。結構な金額だ。 「どうですか?」 どうですかって、俺に買えってこと? さすがにこんなお婆さんじゃ、立つものも立たないよ。 「こういった老人は、労働力ではなく知識を役立てるのです」 体ではなく頭を働かせるわけか。 奴隷を買う気はないけど、もし買うと仮定するなら若い女性のほうがいい。見ているだけで目を楽しませてくれるような、綺麗な人がいいに決まっている。 「この者は売れ残っており、この後鉱山に送られます。そうなれば、数日もせずに……」 ゴルテオさんが目を伏せる。 えぇ……そんなこと聞かせられると、心が痛むじゃないか。そうやって買わせようという腹だよね? 買わないからね。 「残念です。この者の命もあと数日ですか……」 ぐっ……。凄く悪いことをしている気分だ。 老婆まで俺をじっと見つめてくる。そんな恨めしそうな目で見ないでくれよ。 「では、あちらに行きましょう。そこの君、アンネリーセを鉱山に送ってくれ」 「はい。畏まりました」 あぁもうっ! 「買います。この人を買いますから、鉱山へは送らないでください」 俺ってなんでこんなにお人好しなんだろうか。自分で自分が嫌になる。 ゴルテオさんは良い笑みを浮かべ、従業員の人を手で制した。 「お買い上げありがとうございます。さっそく手続きしますから、別室でお待ちください」 俺が買うことが分かっていたような対応だ。いや、買わされたんだろう。百戦錬磨の商人と俺では役者が違うということだろう。 --- ## 005_老婆アンネリーセ ## ■■■■■■■■■■ 005_老婆アンネリーセ ■■■■■■■■■■ 奴隷を買うなんて……。なんでこうなったのか、自己嫌悪する。 宿屋に戻った俺は、力なく椅子に座るアンネリーセなる老婆の奴隷を見てため息を吐く。 この宿では、奴隷は主人と一緒の部屋なら1人100グリルで泊まれるそうだ。食費は含まれないが、ここの食事は多いから2人で分けても十分お腹が膨れる。お金はそこまで困ってないから、それはいいんだ、それは……。 「買ってしまったものはしょうがない。これからどうするか……」 老婆はさきほどからコクリコクリと舟を漕いでいる。 買ってから一度も喋ってない。俺なんか眼中にないのか、喋れないのか。どうでもいいか。 老婆を買った時の書類を斜め読みして、アイテムボックスにしまい込む。 とりあえず、アンネリーセをベッドに寝かす。ベッドは1つしかないから、俺は床で毛布に包まって寝ることにした。 アンネリーセが老婆でもギャルでも同意なく同衾するつもりはない。 仮に一緒に寝たとしても、朝起きたら隣で冷たくなっていた。そんなことになりかねない。悪夢だよ、それ。 買ってしまったものはしょうがないから、最期をちゃんと看取ってやろう。それくらいしか俺にはできない。 そう言えば、あれ以来ステータスを確認してないな。 まだ眠くないし、ステータスを確認しよう。 【ジョブ】旅人Lv1 【スキル】健脚(微) 【ユニークスキル】詳細鑑定(低) アイテムボックス(低) 旅人のレベルは上がってないか。スキルの健脚も変化はない。 でもユニークスキルの詳細鑑定とアイテムボックスが(微)から(低)に変化している。 詳細鑑定でスキルの情報を確認すると、スキルは微<低<中<高<極の順で能力が高くなるそうだ。スキルは成長するが、高以上は滅多に存在しないらしい。 つまり、俺の2つのユニークスキルは成長したということだ。 詳細鑑定の成長は分かりにくいが、アイテムボックスのほうは明確に変化が分かった。 アイテムボックスの収納数が増えたのだ。今までは20枠だけど、(低)になった今は40枠になっている。これはとてもありがたい。 次にジョブも調べてみた。現在俺が転職可能なジョブは村人、料理人、商人、運搬人、復讐者、転生勇者の6種類。旅人も入れれば、7種類が選択できるジョブだ。 それらのジョブを詳細鑑定で確認するとこうなった。 ▼詳細鑑定結果▼ ・旅人 : 旅をする者。スキル健脚(微)が使える。取得条件は徒歩の旅を500キロメートルすること。 ・村人 : 初期設定ジョブ。スキルは特にない。 ・料理人 : 料理をする者。スキル・料理(微)、食材目利き(微)が使える。取得条件は料理を1万回作ること。 ・商人 : 商売をする者。スキル・交渉(微)、商品鑑定(微)が使える。取得条件は商売として物品の売り買いを1000回行うこと。または鑑定系のユニークスキルを取得すること。 ・運搬人 : 物を運ぶ者。スキル・アイテムボックス(微)が使える。取得条件は商売として荷物の運搬を100回行うこと。またはユニークスキル・アイテムボックスを取得すること。 ・復讐者 : 復讐する者。スキル・復讐の刃(微)、怒りの刃(微)、限界突破(微)が使える。取得条件は酷い目に100回以上あい、心折れずに反骨精神を持つ者だけが取得可能。 ・転生勇者 : 転生した勇者。スキル・聖剣召喚(微)、身体強化(微)、聖魔法(微)、限界突破(微)が使える。取得条件は神に認められて転生すること。 村人は初期設定ジョブだから転職できるのは分かるが、旅人はどうしてだろうか? 500キロメートルも徒歩で旅したことないんだけど? 人生のトータルでも500キロメートルは無理だろ? あ~、でも通学は徒歩だった。小学校から高校まで徒歩の通学だったから、それでか? 通学が旅になるかはさすがに無理があると思うんだけど……。 料理は毎日料理していたから、条件を満たしたんだと思う。 商人と運搬人はユニークスキル関係の取得だな。 復讐者は全然理解できる。 毎日ごみのように扱われ、暴力を振るわれていた。俺はあいつらに絶対頭を下げない。納得のジョブだ。 思い出すだけでどす黒い感情がこみ上げてくる。今頃あいつらは勇者としてちやほやされているんだろうさ。 さて、問題は転生勇者だ。 あの神様は何をいらないことをしてくれたのか。俺が勇者だなんて笑えないぜ。俺は復讐者のほうが似合っている。 それにこんなジョブをセットしていたら、国や教会に間違いなく目を付けられる。教会があるかはしらないけど。 俺はちらりとアンネリーセを見た。しわくちゃな老婆をこれから養わなければいけない。 何度も後悔したが、買ったからにはちゃんと最期を看取ってやろう。 それにせっかくだから、その知識を役立ててもらおうと思う。 俺はこの世界のことを知らない。その穴を埋めてもらうくらいはしてもらわなければ。 あとは生活費を稼がないといけない。これは最初から心が決まっている。 ダンジョンに入ってモンスターを倒し、生活費を稼ごう。 旅人では戦闘に向かないからジョブを変えるべきなんだろう。だけど、俺に戦闘向きなジョブはない。他人に見られて外聞が悪い復讐者、神様の悪戯の転生勇者、どちらも地雷のはず。 ではどうすればいいのか。 アンネリーセは魔法使いだったな。魔法使いの取得条件はなんだ? ▼詳細鑑定結果▼ ・魔法使い : 魔法を使う者。スキル・魔力上昇(微)が使える。取得条件は魔導書を使うこと。 魔導書とはなんだ? ▼詳細鑑定結果▼ 魔導書 : 魔導書はダンジョンのモンスターが稀に落とすアイテム。または宝箱から発見されることもある。 なるほど、魔法使いになるには運が必要か。それとも魔導書は市場に出回っているのだろうか? 詳細鑑定がもっと詳しく教えてくれたら良かったのに……。 ▼詳細鑑定結果▼ 魔導書 : 魔導書はダンジョンのモンスターが稀に落とすアイテム。または宝箱から発見されることもある。モンスターが落とす確率は1万分の1。宝箱から発見できる確率は300分の1。市場価格は100万グリルから300万グリル。 お……おお……なんだよ、やればできるじゃん。 しかし、買う場合は最低でも1000万円か。これは高い。自力で見つけるのもかなり厳しそうだけど、買うのも大変だ。 他のジョブも取得条件を確認してみよう。今あるお金が底を突く前に、戦闘職を得てみせる。 それはそうと、こんなヨボヨボの老婆をダンジョンに連れていくわけにはいかない。 ダンジョンには俺1人で入ろう。ダンジョンで活動するための情報を、アンネリーセに聞こう。これだけの年齢だし、魔法使いなんだからダンジョンに入ったことくらいあるだろう。 アンネリーセは新しい魔法を創ろうとしていたが、魔法を暴走させ数十人に怪我を負わせ、多くの家屋を破壊したらしい。 どんなマッドサイエンティストだと思ったが、こういうことはたまにあるらしい。この世界、怖っ。 その暴走事故によってアンネリーセは、私財没収と奴隷100年の刑に処せられた。100年なんて絶対生きてないよね。俺も死んでいる自信がある。 そんなわけで、アンネリーセは死ぬことで奴隷から解放されるようだ。 それから購入してから知ったことだが、アンネリーセはハーフエルフらしい。年齢はなんと318歳。 エルフが長命なのは知っていたけど、この世界のエルフの寿命は1000年くらいあるらしい。ハーフエルフはエルフほどでないが、250年くらい生きると聞いた。318歳のアンネリーセは本当にいつお迎えが来てもおかしくないらしい。 この寿命はあくまでも目安だから、エルフの血が濃いとハーフエルフでも500年くらい生きる場合もあるらしい。 もしアンネリーセも500年生きるなら、寿命が尽きる前に奴隷から解放されることになるだろう。かなりレアなことらしいが。 それから主人が死んだ場合、奴隷の所有権は相続者に移る。その際に奴隷商人にまた売られるかもしれないが、奴隷期間に変わりはない。 翌朝、俺が目覚めると、アンネリーセはすでに起きていた。床で寝ていた俺を見下ろしていたから、結構怖かった。俺の生気を吸い取られるんじゃないかと錯覚しそうだ。夢に見そうだよ。 「ごめんなさい」 容姿なりのしわがれた声だ。 「何が?」 「ベッドを使ってしまったことです」 アンネリーセはベッドを使ったことが気まずかったようだ。 「いいよ。俺は床で寝られるし。それより、朝ごはんを食べようか」 アンネリーセを連れて食堂へ向かった。 今日はさすがにあれだけの量を食べられないから、2人で分けることにした。 「アンネリーセは肉と魚、どっちがいい?」 「魚です」 年をとると、肉よりも魚のほうがいいのかな。 2人で席に座って待っていると、あのおばさんが料理を運んできてくれた。 パンが相変わらずデカい。それ以上に魚がデカい。40センチくらいある皿から頭と尾が飛び出しているんですが。 これ、肉より食い応えあると思うのは、俺だけか? 取り皿をもらって、アンネリーセと分け合う。どちらかと言うと、アンネリーセに多く分けた。 「いただきます」 まずはパンをスープに漬けて口に放り込む。昨日はシチューのようなスープだったけど、今日はコンソメスープのようなさらさらのスープだ。味はコンソメじゃないけど、野菜がたくさん入っていてそれが出汁になって優しい味に仕上がっている。 俺が味わって食べている横でアンネリーセは凄い勢いで食べている。 予想外の展開だ。その年でそんなに食欲が湧くものか? もしかしたらゴルテオさんの店で食べさせてもらってなかった? 奴隷に食事を与えないと違法だと、ゴルテオさん自身が言っていたからそれはないはずだ。 これがアンネリーセ本来の食欲ということか。なんとも凄い勢いだ。 俺が半分も食べてないのに、アンネリーセは食べ終わった。魚は骨だけになり、スープなんか一滴も残ってない。 「もっと食べる?」 「いいのですか?」 「食べたいなら我慢せずに食べればいい」 「今度は肉でも?」 「お、おう」 俺のを分けるつもりだったけど、まさか1人前を頼むとは思わなかった。 料金を払って肉のセットも頼んだ。 給仕のおばさんも、アンネリーセの食欲に目を白黒させていた。 「よ、よく食べるね……」 「食欲があるのは元気な証拠ですから……」 そう答えたものの、その食欲に俺も引いていた。 --- ## 006_勇者たち ## ■■■■■■■■■■ 006_勇者たち ■■■■■■■■■■ 大理石の床に投げ出されるように召喚された34人の高校生は、可愛くも豪華なドレスを着た王女エルメルダの監視下に置かれていた。 召喚された34人は、すぐにレコードカードを確認された。 レコードカードとは、その人物の人生の記録である。人が死ぬと胸から排出されるものとして有名だが、これは生きた者でも確認することができる。あるスキル、または魔法を使うことで生きている者のレコードカードを確認できるのだ。 「何故あの者たちは犯罪者ばかりなのだ」 34人のうち、12人が犯罪者であった。『たった12人』と言うか、『12も』と言うかは個人差があるだろう。エルメルダは『12人も』と感じたのだ。 この数字は召喚した34人の35パーセントにもなる。犯罪者率35パーセントは高い。国家レベルでこのような数字なら、国の統治が成立してないレベルのものである。 「幸いなのは、重犯罪が少なかったことか」 少ないだけで居なかったわけではない。10人は傷害と恐喝、窃盗など軽微な罪だったが、2人は放火や強盗とこの国で重犯罪と言われる罪を犯していた。 エルメルダは憂い深き表情で召喚勇者たちのレコードカードの控えを見つめる。 「なぜ炎の勇者が重犯罪者なのだ」 34人のうち4人が勇者系ジョブだったが、そのうち3人が犯罪者であった。特に攻撃力がもっとも期待された炎の勇者であるシンジ・アカバ───赤葉真児は、放火犯であった。 放火犯だから炎の勇者になったわけではない。シンジが放火犯で炎の勇者になったのは偶然の産物である。他の勇者の属性と犯罪歴に関係性がないことからそう考えられた。 氏名、性別、年齢、ジョブ・スキル・犯罪歴が記録されているレコードカードだが、王女エルメルダにとって重要なのはジョブとスキルである。仮にその者に犯罪歴があろうと、それは過去のこと。もっと言えば、違う世界のことである。異世界の法律など、この国では適用されないのは当然のことである。あるのだが……。 「あの勇者たちが力をつけていいのでしょうか?」 召喚したはいいが、勇者たちがこの国に厄災をもたらさないとは言えない。勇者イコール品行方正だと思っていただけに、エルメルダは大きな不安に苛まれていた。 とは言え勇者を召喚することは、内外に向けて大々的に宣伝してしまった。今さらなかったことにはできない。勇者たちでも罪を犯せば、容赦なく断罪しなければいけない。召喚者たちが罪を犯さないように、教育をしなければいけない。こんなことで頭を悩ませるとは、召喚前には思ってもいなかった。 エルメルダは騎士団長と魔法師団長を呼び出した。 「34人に何をしたら犯罪になるか、最初に教育しなさい。勇者であろうと、犯罪者は許さないとも」 「あの者たちの犯罪歴のことは聞いております。軽微な犯罪はともかく、重犯罪者は更生しますでしょうか?」 騎士団長の言葉に、エルメルダは眉間にシワを寄せた。これまでエルメルダがしたこともない表情に、騎士団長も魔法師団長も事の重大さを痛感する。 この世界では犯罪者に更生を促していない。犯罪者は犯罪者であり、更生するものではないと考えられているからだ。犯罪者には犯したその罪に応じた罰が与えられる。ただそれだけなのだ。その罰は死ぬよりも辛いことかもしれないが。 「更生させるしかありません。勇者には人々の模範となってもらわなければいけません。それが叶わなければ───」 排除という言葉を飲み込むエルメルダだった。 国が勇者召喚を行なったのは、国内にある複数のダンジョンにおいて、モンスターの数が増えたからだ。ダンジョンのモンスターの数が増えると、いずれ地上へ溢れる。そうならないためにも、ダンジョン内のモンスターを間引く必要がある。 幸い、ダンジョンからモンスターが溢れ出すまでには、数年の時間がある。だが一度増え出すと簡単には収まらないのがこの現象である。過去の実績からダンジョンの深い層のモンスターを間引けば沈静化するのが分かっている。だから強力なジョブである勇者を召喚したのだ。 「―――であるからして、他人のものを無断で奪う行為は窃盗という犯罪になります」 「おいおい、俺たちはなんの授業を受けてるんだよ? そんなのガキでも知っているっつーのっ」 問題の炎の勇者シンジがダルそうに、講義を行なっている文官を威嚇する。 「子供でも分かっている犯罪を、大人がします。こういったことを知らなくても、罪を犯せば罰せられますから、これは皆さんの身を護るための講義でもあります」 「そんなもの、国がなんとかすればいいじゃないか」 シンジはそんなことと言うが、罪を犯した者はしらない間にジョブが盗賊やそれに類するものに変化している。変化してからでは遅いのだ。 それはさておき、このようなことを言うシンジは、法を守る気がない。そう文官は感じた。 「国は法を守るものを庇護し、法を犯す者を断罪するものです。ですからもみ消すようなことはしません。これらのことは皆様が最低限知っておくべきことであり、それを知らないと言っても通じません」 「ちっ。召喚しておいて、そんなこともしないのかよ。しけた国だ」 文官からすれば法を守るのは当然のことだというのに、召喚されたから特権があると思い込んでいるのはシンジだけではない。他の勇者たちも同じように考える者が一定数存在した。 エルメルダたちはシンジたちを無理やりこの世界に呼んだという自覚と負い目がある。だから国として召喚した勇者たちには、できるだけの待遇を与えている。ただしそれは常識の範囲内であり、過剰な特権を与えるものではない。 文官は勇者たちの授業態度をよく観察し、それをエルメルダに報告した。 「やはり態度が悪い者が多かったのですね。困った方々です……」 エルメルダは1週間ほど様子を見て、性質が悪そうな者とそうでない者を選別した。その結果、勇者たちは3組に分けられた。 性質の悪い者が集められた組は、シンジを含めて14人。そうでない者が集められた組は14人。そして生産系ジョブの6人だ。 幸いと言うべきか、ジョブはバランス良く分けることができた。 組み分け後、騎士団長と魔法師団長が勇者たちを訓練場に呼び出した。 「1カ月間戦闘訓練を行い、その後は実際にダンジョンに入ってもらうことになる。訓練であっても気を抜いていると、大怪我をする。気合を入れて行うように」 騎士団長の言葉に、勇者たち───特にシンジたちの反応はよろしくない。 「なあ、訓練なんてかったりーことなんてせずに、さっさとダンジョンとやらに入らせてくれよ」 「訓練もせずにダンジョンに入るのは危険だ」 「そこをなんとかするのが、勇者ってやつじゃないのかよ」 なおも食い下がるシンジに、騎士団長と魔法師団長は顔を寄せ合って相談した。 「分かった。シンジの組はダンジョンへ入ってもらおう」 痛い思いをさせれば、懲りるだろうと両団長は考えたのだ。 「そっちの組はどうする?」 シンジの組ではないほうに聞く。 「俺たちは訓練してからにします」 勇者たちは実戦に出るシンジの組と、城に残って訓練する組に分かれることになった。 召喚された勇者たちは、全員が戦闘系ジョブではない。34人中4人が勇者系ジョブ、8人が前衛系ジョブ、8人が魔法使い系ジョブ、4人が斥候系ジョブ、4人が神官系ジョブそして、6人は鍛冶師や錬金術師などの生産系ジョブである。 よって、全員が戦闘訓練するわけではない。 夕方になって自室に戻った生産系ジョブだったサヤカ・イツクシマ───厳島さやかは、陰鬱な表情をしていた。 「なんで誰も藤井君のことを言わないのかな……」 今回、クラスメイトたちが召喚された。しかし本来は35人居るはずなのに、34人しか召喚されなかった。1人足りないのが、藤井である。 その藤井が別の場所に転生していることなど誰も知らないことから、クラスメイトのほぼ全員が召喚されなかったのだと思った。 サヤカだけは行方不明のクラスメイトの安否を案じている。どうして1人だけ居ないのか、この世界の別の場所に飛ばされて苦労してないのか、酷い目にあってないか……。 「藤井君にとっては、ここに居ないほうがいいのかも……」 藤井を虐めていたクラスメイトは全員ここに居る。彼らから離れられたことは、藤井にとって良かったはずだ。 特に虐めのリーダーであるシンジがここに居る。それだけでも藤井は暴力を振るわれずに済むのだ。 「私にもっと勇気があれば、藤井君を助けられたのに……」 勇気がなく虐めを止めることができなかった。今もシンジが怖い。いや、もっと怖くなった。 サヤカは錬金術師だが、シンジは炎の勇者だ。その腕力の差はさらに開いた。 ベッドに座り込み、やや赤みのかかった髪が垂れるほど俯くサヤカ。 「会いたいよ……藤井君……」 消え入りそうな声を絞り出す。 --- ## 007_装備選び ## ■■■■■■■■■■ 007_装備選び ■■■■■■■■■■ 「ダンジョンのことを教えてくれるか」 転生4日目の朝食後、アンネリーセにダンジョンのことを聞いた。 「ダンジョンは危険です」 「それは分かっている。その上で、心構えや準備するものなど、ダンジョンの中で俺が死なないためのアドバイスが欲しい。一応言っておくが、俺はダンジョンのことをまったく知らない。そう思ってアドバイスしてくれ」 アンネリーセは頷いて、少し考えた。 「ダンジョンとモンスターの特徴を事前に把握することでしょう」 「その情報を教えてくれ」 「私に聞くよりも探索者ギルドで資料が手に入りますから読んだほうがいいでしょう」 「了解だ。他には?」 「罠を発見することです」 「どうやって?」 「斥候系ジョブを連れて行くのが一番です」 「俺1人でダンジョンに入るつもりだから、それを踏まえて対策を教えてくれ」 「私が一緒に入ります」 「いや、それは……」 アンネリーセを背負ってダンジョン探索とか、どんな苦行だよ。 「大丈夫。私は強いし、罠も発見できます」 そう言われてもなぁ。 「それじゃあ、罠の発見方法や解除方法を教えてくれ」 「魔法ですから、ご主人様には無理でしょう」 魔法で罠を発見して解除するのか。俺のジョブに、魔法が使えるのは転生勇者しかないからな……。しかも罠関連の魔法はない。 アンネリーセは頑固だった。年を取ると頑固になると聞いたことがあるが、その通りだな。最悪は背負って歩こうと覚悟を決め、アンネリーセを連れて行くことにした。 俺はアンネリーセが言うように、ダンジョンに入るための準備を進めた。 武器は予備も持っていくこと。防具は消耗が激しい戦い方なら予備が要る。もしもの時のために水と食料は予定よりも多めに持っていく。野営する場合は厚手の毛布は必須。 食料と水は凄く重かった。そこでアイテムボックスに全部放り込んだ。幸いなことにアイテムボックス(低)になったことで、40枠あるから全部入った。 入らなくても複数のものを1つの布袋に詰めてまとめれば、アイテムボックスの使用枠は1枠で済む。これ裏技じゃないけど、便利。 「アイテムボックス……? ご主人様は運搬人ですか?」 なんかめっちゃ驚かれた? 「いや、俺は村人だよ。レベルは1」 「レベル1の村人?……アイテムボックスのユニークスキル持ちでしたか」 アンネリーセが微妙な表情をした。なんだろう、村人がそんなに珍しいのかな? それともユニークスキル持ちはそんなに数が少ないとか? 「どうした?」 「ユニークスキル持ちは滅多に居ません。大都市と言われるこのケルニッフィにも数人居るかどうかだと聞いたことがあります」 ケルニッフィの人口は20万人くらいってゴルテオさんは言っていた。20万分の数人は少ないと思うが、世界全体で考えればそこまで珍しくもないんじゃないか? 「あまり知られないほうがいいのかな?」 一応、アンネリーセ以外には見せてない。ラノベがそう教えてくれたからね。 「ユニークスキルは普通のスキルよりも効果が高く、ユニークスキルのアイテムボックスの収納量は運搬人の倍になります。貴族や商人、それに大量の荷物を運ぶ探索者には羨ましがられるスキルです」 アイテムボックスのおかげで手ぶらで移動できるのは、たしかに大きいな。 「運搬人は一定数存在しますが、数はそこまで多くないです。戦闘では運搬人のレベルが上がらないのですが、探索者からは特に重宝がられます。下手をすると拉致されて奴隷にされることもあるでしょう」 拉致とかヤバいだろ。 「なるほど……人前では使わないほうがいいか」 「はい」 こういう常識が聞けるだけでも、アンネリーセを買った甲斐があった。その少ない寿命が尽きるまでに、できるだけ多くの知識を俺に与えてくれ。 それと詳細鑑定のことは誰にも言わないでおこう。これを知られるのは、かなり危険な気がする。何がどうかと言われると、なんとなくとしか言えないのだが。 「それと……」 「うん? どうした? 遠慮なく言ってくれ」 「村人でレベル1はとても珍しいです」 「え?」 「村人はどんなことをしていてもレベルが上がります。ご主人様の年齢でレベル1はこれまでに何もしてこなかったことを示します。これはとてもおかしなことです」 「な、なるほど……」 これは盲点だった。旅人にしておけば問題なさそうだから、変更しておこう。 「そう言えば、探索者登録はアンネリーセも必要かな?」 「奴隷の登録は不要です。ご主人様だけで構いません」 そんなわけで俺だけ探索者登録することにした。 アンネリーセの首には無骨な奴隷の首輪が嵌っているから、これで奴隷だと分かるらしい。 こんな老婆に首輪をつけるとか、日本なら老人虐待で通報されるんじゃないか。 「アンネリーセは魔導書を使って魔法使いになったの?」 「そうです」 「魔導書はダンジョンで手に入れたの? それとも買ったの?」 「ダンジョンで手に入れました。魔導書はかなり低い確率でモンスターからドロップしますから、運が良かったのでしょう」 モンスターからドロップする確率は1万分の1だから、かなりの確率だ。しかもモンスター1万体を倒すのは、1人ではない。毎日多くの探索者がダンジョンに入っているから、その探索者全員に可能性がある。 話を聞いて、俺はアンネリーセを連れて探索者ギルドに向かった。 町中で行きかう人たちを鑑定し、そのジョブを確認させてもらう。 ▼詳細鑑定結果▼ ・剣士 : 剣を扱う者。スキル・スラッシュ(微)、見切り(微)が使える。取得条件は本気の素振りを連続で100回1セット、100セット行うこと。またはモンスターを剣で100体倒すこと。 ・槍士 : 槍を扱う者。スキル・三連突き(微)、打ち下し(微)が使える。取得条件は本気の突きを連続で100回1セット、100セット行うこと。またはモンスターを槍で100体倒すこと。 ・神官 : 神に仕える者。スキル・祈り(微)が使える。取得条件は500日間祈り続けること。またはモンスターを素手で100体倒すこと。 ・騎士 : 仲間を護る者。スキル・挑発(微)、シールドアタック(微)が使える。取得条件は盾で攻撃を1000回受けること。 ・モンスターテイマー : モンスターを使役する者。スキル・テイム(微)、モンスター強化(微)が使える。取得条件はモンスターと1対1で戦い100回勝つこと。 歩きながらチェックしていて、主立った戦闘系のジョブを確認した。 剣士ならなんとかなりそうだけど、実際にモンスターの強さを知らないからやってみて考えるしかない。 「そう言えば、アンネリーセの武器と防具を買わないとな。あと服も」 「武器は杖。防具はローブ。服はワンピースがほしいです」 アンネリーセはちゃんと自己主張をする。ただ歩くのがとても遅い。俺が10メートル歩く間に、アンネリーセは5メートルくらいしか歩けない。年寄りだからしょうがないが、先が思いやられる。 アンネリーセの歩く速度に合わせて、服屋、武器屋、防具屋と回った。 服屋では服と下着と靴下を10分もかからず選んだアンネリーセだったけど、武器屋では杖の前に陣取って動かなかった。電池がきれたように動かなかったから死んでしまったのかと思って焦ったが、杖を選ぶのに考え込んでいた。 「そんなに考え込んで何を気にしているんだ?」 「手に馴染むものを選んでいました」 馴染む前に持ってないし。それで馴染むとか分からないだろ。 ・魔法使いの杖A : MATK+4 耐久値13/13 ・魔法使いの杖B : MATK+5 耐久値13/13 ・魔法使いの杖C : MATK+5 INT+1 耐久値14/14 ・魔法使いの杖D : MATK+3 耐久値12/12 ・魔法使いの杖E : MATK+4 MIN+1 耐久値13/13 「これにします」 アンネリーセが選んだのは魔法使いの杖Cだった。 「なんでそれにしたんだ?」 「杖が私を呼んでいました」 アンネリーセはヤバい系の人か? 「これなんかどうだ?」 あえて効果の低い魔法使いの杖Dを勧めてみたが、首を振った。 「その子は主張が弱いです」 どうやら杖の良し悪しを感覚で分かる天才系の人のようだ。 防具屋でも同じようにローブを選ぶのに時間がかかった。 それでも複数の中から一番いいものを選んだ。 アンネリーセのステータスには、鑑定や目利きのようなアイテムの良し悪しを確認するスキルはない。長い経験による勘のようなものなんだろう。 ・魔法使いのローブ : MDEF+3 MIN+1 耐久値10/10 アンネリーセは魔法使いだから、胴装備はローブがいいそうだ。 そして俺が持っている武器と防具はこんな感じになる。 ・鉄の片手剣 : ATK+10 STR+2 耐久値31/31 ・鋼鉄の片手剣 : ATK+15 STR+3 耐久値45/45 ・ミスリルの両手剣 : ATK+35 STR+7 DEX+6 斬撃強化(低) 自動修復(低) 耐久値85/85 ・鉄の盾 : DEF+10 VIT+2 耐久値30/30 ・鋼鉄の盾 : DEF+15 VIT+3 耐久値47/47 ・鉄の胸当 : DEF+10 VIT+2 耐久値31/31 ・鋼鉄の胸当 : DEF+15 VIT+3 耐久値46/46 ステータス画面を見ると、各能力値が分かる。ゲームで馴染んだ各能力表示だったから、迷わずに受け入れることができた。 HP=生命力(Hit Point) MP=魔力(Magic Point) STR=腕力(Strength) VIT=体力(Vitality) AGI=素早さ(Agility) INT=賢さ(Intelligence) MIN=精神力(Mind) DEX=器用さ(Dexterity) ATK=攻撃力(Attack) DEF=防御力(Defence) MATK=魔法攻撃力(Magic Attack) MDEF=魔法防御力(Magic Defence) こういった能力はレベルに比例して上がっていくようだが、ジョブによって上がり方が違うというのがゲームの常識だ。あとは種族によっても上がりやすい能力とそうでない能力があるはずだが、この世界のシステムがどんな感じなんだろうか。 俺の能力はこんな感じになっている。 ジョブは旅人にしている。詳細鑑定が教えてくれたのだが、旅人、料理人、商人、運搬人は戦闘でレベルが上がらないらしい。復讐者と転生勇者は戦闘でレベルが上がるけど、セットする気はない。残る選択肢は村人だけだったが、村人Lv1はおかしいとアンネリーセに指摘されている。だから旅人にしている。 村人のレベルが4くらいあれば、村人にしていたんだけどね。 あとレベル7の村人とレベル1の剣士の強さがほぼ同じくらいらしい。これは剣士がスキルを使わない前提で、スキルを使ったら剣士が圧勝するらしい。それだけ村人は弱いが、何をしても成長することから成長速度は速いと詳細鑑定が教えてくれた。 【ジョブ】旅人Lv1 【種 族】ヒューマン 【能 力】 HP=30 MP=30 STR=5 VIT=5 AGI=5 INT=5 MIN=5 DEX=5 ATK=15 DEF=15 MATK=15 MDEF=15 STP=0 ジョブを変更すると能力値も変わる。特に地雷の2つのジョブの能力値はそこそこ上がるが、セットするつもりはない。また、武器と防具を装備していると補正値込みの表記になる。 さらに俺の能力画面には、STPという項目がある。これはステータスポイントの略で、レベルが上がるとポイントが入るらしい。 ジョブのレベルアップによる成長がある上に、ステータスポイントを自由に割り振られるらしいのだ。 それと昨夜のことだが、俺のステータス画面からアンネリーセのステータス画面が見えた。奴隷のステータス画面は俺のステータス画面に繋がるらしい。 これがアンネリーセの能力値だ。 【ジョブ】魔法使いLv21 【種 族】ハーフエルフ 【能 力】 HP=96 MP=126 STR=13 VIT=12 AGI=19 INT=22 MIN=20 DEX=18 ATK=39 DEF=36 MATK=66 MDEF=60 レベルが高いだけあって、アンネリーセは強い。普通に殴られただけで、死ねるかもしれないくらい強いステータスなんだが、歩く速度は俺の半分だ。ステータス値はそういったものには関係ないのだろうか? さらにアンネリーセにはSTPがなかった。「ゼロ」ではなく「ない」のだ。 よく分からないが、町中を歩いている人たちのステータスを詳細鑑定してもSTPはなかった。俺だけの特典なのか、召喚されたクラスメイトたちにもあるのか、それとも極稀にSTPを持つ人が現れるのか? 詳細鑑定はそこまで教えてくれなかった。 --- ## 008_初めてのダンジョン ## ■■■■■■■■■■ 008_初めてのダンジョン ■■■■■■■■■■ 転生4日目にして、俺は探索者になった。探索者ギルドでは名前を登録して、レコードカードを確認された。 生きている俺からレコードカードを取り出せるとは思ってもいなかったから、確認すると言われた時は普通にはいと言ってしまった。 事前に村人Lv1は異常だと言われていたので、旅人にしておいた。旅人ならレベル1でも問題ないからね。 ダンジョンに入る時はジョブを村人にするつもりだけど、ダンジョンの外では旅人だ。 職員が「白日の下に彼の業を示せ」と詠唱したらレコードカードが胸から出てきた。職員はレコードカードを確認し、返却してきた。 返却されたレコードカードは氏名、性別、年齢、ジョブ・スキル・犯罪歴が記載されていた。もちろん、犯罪歴はない。 今さらだが、俺の名前はトーイになっていた。ステータスでもトーイだったから俺は本当にトーイとしてこの世界で生きていくんだと感じたよ。 スキルは健脚しか表記されていなかった。旅人のスキルだけだ。ユニークスキルがスキルとして表記されていないのはなぜだろうか? 生まれながらに所持しているスキルが、ユニークスキルだとアンネリーセは言っていた。生来のものだから、普通のスキルよりも強力なんだとか。普通のスキルじゃないから、スキル枠から出てユニークスキルになった。だからスキルには表記されない。そう考えておこう。 でも俺に戦闘スキルはない。便利だけど、ちょっと残念だ。 そう言えば、盗賊のレコードカードを持っていたんだっけ。政庁に行けばお金になるとゴルテオさんが教えてくれたけど、すっかり忘れていた。 「死んだ人のレコードカードって、ずっと消えずに存在するの?」 アンネリーセに聞いてみた。 「死んだ人のレコードカードは、1年で自然に消滅します」 今すぐ換金する必要はないが、忘れていると換金できなくなるか。今日は時間が時間だから、ダンジョンに入れない。政庁へ行き換金して宿に帰ることにしよう。 「これは?」 俺のレコードカードを見せる。 「生きている方の場合はすぐに消えますから、仮に盗まれても問題ありません」 自然に消えてまた出せるらしい。便利なものだ。 忘れずにダンジョンの冊子を購入した。1階層から5階層のモンスターの情報と簡単な地図が載っているものだ。 地図を見て一瞬これは何かと思ったが、よく見るとボス部屋までの経路が描いてあるものだった。これを地図と言っていいか、甚だ疑問なものだ。 ギルド内の食堂に入った。喉が渇いたから飲み物を頼もうと思ったんだけど、メニューにあった飲み物はエールとワイン、そして水の3択しかなかった。 俺は水、アンネリーセはワインを頼んだ。ご主人様が水なのに、奴隷がワインを飲むシュールさよ……。 「水でもお金を取られるのにビックリだったけど、金取っているのに温いのがムカつく」 「ギルドの酒場で水を飲む人が居ないのです。冷たい水が飲みたいなら、井戸から汲んできましょうか」 「……いや、いいよ」 老婆に労働させるのは、俺的にアウト。 そしてここが酒場だった件について。だって屈強な男たちが何の肉か知らないけど、骨付き肉に豪快にかぶりついているんだぜ。酒も飲んでいるけど、食堂だと思うじゃん。 酒場で温い水を飲んでいる間に、レコードカードは10分程で自然に消えた。やっぱり異世界なんだと思うような、不思議な現象だ。 アンネリーセに案内してもらった政庁でも、俺のレコードカードが確認された。犯罪歴はなかったから全然問題ない。 政庁で待っている間にダンジョンの冊子を読んだ。今でも不思議だが、この世界の文字が読める。 冊子を読んでいると処理が終わり、お金を受け取った。冊子のおかげでいい時間つぶしになったよ。 お金を受け取ったが、7万グリルしかもらえなかった。いや、70万円だからそこそこの金額なのかもしれないが、5人の命の代価としては少ない気がする。 1人当たり1万グリルではなく、雑魚は1人5000グリルで盗賊の頭が5万グリルだった。 転生5日目の朝、俺たちはダンジョンに向かった。 昨夜もベッドはアンネリーセに使ってもらった。お婆ちゃんに床で寝ろとか言えない。部屋を大きなものに変えてもらおうかと思ったけど、床で寝るのは苦じゃないからこのままでいいだろう。 問題は季節が晩秋から冬へ移り変わっていくことだな。今後、床で寝るのが寒くなったら考え直そう。 ダンジョンは町のやや外にある。ちょっとした林の中だ。林の中に急に黒い渦が現れる。ぽっかりあいた空間の穴と言うべきか。 その周辺には木々を縫って露店が出ていた。さらには多くの探索者と思われる武装した人々も多く居る。 その探索者たちの中にジョブが村人の人が居る。かなり数が多い。彼らはジョブ・村人でダンジョンに入り、剣士などのジョブへの転職条件を満たそうというのだろう。 昨日から村人のレベルを確認していたが、15くらいの人も居た。探索者だけではなく町中で確認した結果だ。 どんなことでも経験値を得てレベルが上がるのは確かなようだ。 村人の探索者たちは、剣か槍を持っている。弓はなく、剣か槍の2択だ。 もちろん魔法使いも居ない。村人なんだから当然だ。 「弓を持っていないのはなぜ?」 魔法は無理でも、弓があれば遠くから攻撃できるはずだ。 「弓は矢が消耗品で剣や槍よりもお金がかかるから、誰もやりたがらないのです」 金銭面の話か。 「パーティーで矢を買うとかしないの?」 「普通はしないです」 個人負担じゃ、矢を買う分だけ費用がかさむ。その分報酬の分配が多ければいいが、そんなものはないんだろう。 「運よく魔導書が手に入ったら、パーティー内の誰が使うの?」 「リーダーかモンスターを倒してる者が使うか、あとは売ってお金に替えるかです」 「リーダーは分かるけど、多くモンスターを倒している人だと、逆に戦力ダウンになるんじゃないかな? だって、モンスターを多く倒しているということは、それだけ剣士や槍士への転職が近いわけだよね。そういった人が剣士や槍士になったほうが効果があるはずじゃないか」 「そういった考えはないです。魔法使いは強力だから、皆がなりたがります。だから貢献度が高い人がなります」 「ふーん。非効率だね」 「………」 俺は効率が悪いと思うけど、人生がかかっているわけだからそういうものなのかもしれない。 話を聞きながら露店で池イカの姿焼きを買った。アンネリーセの分もちゃんと買っているが、歯ごたえがあるから喉に詰まらせないか心配だ。その前に噛み切れるかな? 「池イカはゲソのほうが美味しいと思いますよ」 これはゲソも買えと催促しているんだろうな。 おじさんは苦笑したが、商売になるから俺をジッと見てくる。 「……ゲソを2つもらうよ」 「あいよ!」 いい笑顔を浮かべたおじさんの返事が返ってきた。 アンネリーセの歯はまだしっかりしているようで、池イカの姿焼きとゲソ焼きをあっという間に腹に収めた。 俺はまだ姿焼きさえ食い終わってない。そんな俺が持つゲソ焼きにアンネリーセの視線が釘付けになっている。 「食べていいよ」 「遠慮なく」 アンネリーセの食欲はどこから来るのだろうか? 体の動きは俺よりもゆったりとしているから、そんなにエネルギーを使ってないはずなんだが。 朝食もアンネリーセは自分の分と俺の半分を食っているのに、本当に摩訶不思議だ。 村人の5人パーティーに続いて俺とアンネリーセもダンジョンに入っていく。 皆が入っていくから続くけど、誰も居なかったらこんな不気味な穴に入ろうなんて思わないだろう。 何も感じず、一瞬でダンジョンの中に入れた。石の床、石の壁、石の天井だ。蛍光灯も松明もないのに、うす暗い程度の明かりはある。 「ダンジョンの中は人工的な造りなんだな」 「一説には魔王がダンジョンを造り、モンスターを生み出していると言われております」 「魔王……」 異世界物ではベタなワードだけど、この世界にも魔王が居るんだ。いや、言われているだけで、居るとは言ってないか。 俺は歩きながら魔王についてアンネリーセに聞いた。 魔王の正体は誰も知らないらしい。誰も会ったことがないらしい。 「魔王に会ったこともないのに、なんで魔王が居ると言えるの?」 「昔からそう言われています」 なんというか、迷信や勘違いの積み重ねで魔王という存在しないものを作り出している感じか。 本当に居るかもだけど、居ないほうに1票。できるだけ魔王イベントはないほうがいい。これがフラグにならないことを祈って……。 さて、無駄話ではないが、口よりも手を動かそう。いや、まずは足だ。 --- ## 009_初めてのモンスター ## ■■■■■■■■■■ 009_初めてのモンスター ■■■■■■■■■■ ペタッペタッと石の床を草履の裏が打つ。アンネリーセは草履を履いていた。いくら戦闘させないつもりでも、ブーツを買うべきだったと今さらながら後悔する。 「戦闘は俺がするから、アンネリーセは俺の戦い方を見て気になったところを教えてほしい」 「分かりました」 と言っても戦闘は初めてだから、ここは安全第一で行くか。 クイック装備からミスリルの両手剣、鋼鉄の胸当を装備。 「え?」 アンネリーセが小さな声を出したので、どうしたのかと首を傾げる。 「ご主人様のその装備は……どうやったのですか?」 「どうやったって……クイック装備だけど?」 「クイック装備? それはなんでしょうか?」 まさかクイック装備を知らない? アンネリーセのような高レベル者が? そうか、クイック装備はアイテムボックスがないとできないから、知らないのか。 「クイック装備はアイテムボックスに付属する機能かな。そこにセットしておくと、一瞬で装備できるんだ」 「アイテムボックスにそんな機能があるとは知りませんでした……」 とても戸惑った表情だが、アンネリーセが持ってないスキルのことだから無理やり納得させたようだ。 「あと……その剣、もしかしてミスリルですか?」 「お、分かる? いい剣だろ?」 「ご主人様は貴族様ですか?」 「ん? 違うよ。俺はただの平民。貴族なんて知り合いさえいないから」 そもそもこの世界の知り合いは、アンネリーセとゴルテオさんルイネーザさんくらいかな? 宿屋の従業員と探索者ギルドの職員、露店の店主など会話したことがある程度の人を知り合いと言うかは微妙なところだ。 「ミスリルの剣は滅多に出回らないものです。強いとは思いますが、持っていると妬まれるかもしれません」 「そ、そうなの?」 「そうです」 ミスリル装備ってヤバいんだね。とは言え、これを使わないなんてあり得ない。ダンジョンのような危険な場所では何があるか分からないから、最大限の安全マージンを取るのは当然のことだ。 さて、俺たちはダンジョン内を進んだ。最初の分岐は十字路だ。 「どっちに行けばいい?」 「左はモンスターが多めです。真っすぐはそこまで居ません、右は左の半分くらいでしょうか」 なぜ分かる? 「それ、どうやっているの?」 「魔力を操って、周囲に伸ばしてモンスターや探索者の反応を感じています」 「魔力操作、または魔力感知ってことか」 「魔力感知です」 「魔力感知で罠も分かるの?」 「はい」 罠には魔力が含まれているらしく、魔力感知を使えば分かるんだとか。 【ジョブ】魔法使いLv21 【スキル】火魔法(中) 無魔法(中) 魔力操作(中) 魔力感知(中) 魔法威力上昇(中) これがアンネリーセのジョブとスキル。 これまで町中で色々な人のステータスを見てきたが、レベル20を超える人は数人しか居なかった。 中には村人Lv25なんて人もいたが、これは論外だと思う。剣士や槍士、それに魔法使いでレベル20を超えていたのは3人だけ。全探索者を見たわけではないが、レベルが上がりにくい世界なのかもしれない。 あとスキルの熟練度が(中)もレベル20超えの人にしか見られない。詳細鑑定でも(高)以上に上げるのは難しいと言っているから、ある意味(中)になれば最高に近い熟練度なのだろう。 「右に進もうか」 「はい」 日本人は真ん中が好きなんだよ。 少し進んでアンネリーセが俺の腕を掴んだ。 「どうした?」 疲れたのか? 「モンスターが居ます」 うす暗いから俺の目にはモンスターは見えない。 「どれくらいの距離だ?」 「30人くらいの距離」 何その距離は? まさかこの世界では長さをそんな単位で示すのか? 「30人くらいって、寝転んだ人を30人並べた距離?」 「……そうです」 こいつ何を言っているのか? という目で見られてしまった。 人の背丈は個人差があり、150センチの人と200センチの人が30人だと15メートルの差があるんですが? 基準は何センチなの? ちなみに今の俺は155センチくらいだ。かなり背が縮んでしまった。おかげで女の子にしか見られない。 アンネリーセは160センチくらい。腰が少し曲がっているが、俺より高い。 とにかく、30人ならあっても60メートルで、短めに見ても50メートルくらいだと思っておけばいいだろう。 少し進むと通路上に黒い塊が見えた。 「グレイラットです」 それは50センチくらいの灰色のネズミだった。細長い尻尾を入れると1メートルくらいはある。怪しく光る赤い目が狂気を感じさせる。 グレイラットLv1 HP=68 MP=24 STR=9 VIT=8 AGI=11 INT=2 MIN=4 DEX=6 ATK=27 DEF=24 MATK=6 MDEF=12 10メートルくらいの距離になると、グレイラットがこっちへ駆けてきた。結構速いんですが!? 恐怖で足が震える。盗賊だって殺せたのだから、やれると思い込んで恐怖心を勇気で上書きする。 「てやっ」 飛びかかってきたグレイラットに向かってミスリルの両手剣を振り下ろす。技術も何もないただ振っただけの一撃だったが、ミスリルの両手剣はグレイラットを真っ二つにした。 「お……おぉぉ」 グレイラットを切った感触はない。盗賊の時もそうだったけど、ただミスリルの両手剣を振っている感じだった。 これがミスリルの両手剣の威力なんだと、その柄をギュッと握る。 「初めてのモンスター討伐、おめでとうございます」 アンネリーセが地面から何かを拾い上げて、そう言った。 「ドロップ品はネズミ肉です」 俺が感動している間に、グレイラットは消滅してアイテムを残していたようだ。 ネズミ肉を見て気が抜けた俺は、その場に座り込んだ。 「はー。怖かった」 「最初は誰でもそんなものです」 「アンネリーセも最初は怖かったのか?」 「もちろんです。怖くて足が震え、動けませんでした」 レベル21の魔法使いにもそんな頃があったのか。 幸い、吐くことはなかった。盗賊討伐で少し慣れたのか、モンスターが死体を残さないからか。それでも気疲れは凄くしていて、ミスリルの両手剣を持っていた手が震えている。 「最初ですから誰もがこんなものですが、剣はもっと肩の力を抜いて振ったほうがいいですよ」 「そ、そうか……心がけるよ」 アンネリーセも魔法使いになる前は剣を使っていたらしい。彼女は村人Lv4で探索者になり、村人Lv8で剣士に転職、剣士Lv13の時に魔導書を発見して魔法使いに転職したらしい。だから剣を使うのはお手の物で、俺の動きなんかひよっこに見えるんじゃないかな。 しかしドロップアイテムはネズミの肉か。この世界に来て何度か肉を食ったが、まさかこのネズミ肉じゃないだろうな? 特に不味くなかったけど、ネズミの肉だと思うと今後食えなくなってしまう。 うん、考えるのは止めよう。それに肉を食べる時も素材を聞かないことにしよう。 「このネズミ肉はたくさんドロップします。宿屋の朝食の肉もこのネズミ肉です」 うぉーいっ! なんで言うかな。俺、あの朝食気に入っていたんだぞ。これからは魚だけにしよう……。 アンネリーセが手を伸ばしてくる。掴んで立ち上がれということだろう。掴むのはいいが、体重をかけたらアンネリーセも倒れそうだ。 自分で立ち上がって、お礼を言う。アンネリーセが悲しそうな目をする。決して肉の恨みではないぞ。気遣ったんだ。 「ドンドン行くから。悪いけど、ドロップアイテムはこの袋に入れておいて」 「はい」 布袋を渡しておく。重くなったら俺のアイテムボックスに入れて空の布袋を渡せばいい。 次もグレイラットLv1が現れた。ギルドで購入した冊子にも、1階層はグレイラットしか出てこないと書いてあった。ただし、レベルは1から3まで出てくるらしい。 グレイラットの特徴は速い動きから噛みつく攻撃だ。特別な攻撃はしてこないから戦闘に慣れるには丁度いいモンスターらしい。 「せいっ」 ミスリルの両手剣を振り切り、グレイラットがブロックが弾けるように消滅してネズミ肉を残した。 こんなエフェクトなのか。1体目の時は戦闘の緊張から消滅するところは見てなかったので新鮮だ。 「まだ肩に力が入っています」 「そうか。気をつけるよ」 アンネリーセはネズミ肉を拾い、布袋に入れながら指摘する。こういうのは自分では分かりにくいから、言ってもらえるほうが気づけるものだ。 3体目もグレイラットLv1だ。これもミスリルの両手剣の圧倒的な攻撃力のおかげで一撃で倒した。アンネリーセから指摘をもらい、素振りして修正しようと思える余裕が出てきた。 グレイラットの動きは速いが、しっかり見れば対応はできる。ミスリルの両手剣が当たれば一撃必殺だから、とにかく当てればいい。そう考え、肩の力を抜くように心がけた。 4体目も指摘されたが、5体目を倒した時はアンネリーセの指摘がなくなった。 この感覚を忘れないうちに6体目を倒す。指摘はない。 調子が出てきた。この感覚を体に覚えさせるためにさらに進んだ。 そして7体目。初めて見るグレイラットLv2だ。 グレイラットLv2 HP=76 MP=24 STR=10 VIT=9 AGI=12 INT=2 MIN=4 DEX=7 ATK=30 DEF=27 MATK=6 MDEF=12 レベル1に比べると、INTとMIN以外は全部高くなっている。STR、VIT、AGI、DEXが1ポイントずつ、そしてATKとDEFは3ポイントずつ高くなっている。 この時の俺は、この程度の能力差と高をくくっていた。それが油断に繋がってしまうのだった。 --- ## 010_油断大敵 ## ■■■■■■■■■■ 010_油断大敵 ■■■■■■■■■■ 「ぐあっ!?」 グレイラットLv2の体当たりを受けた俺は、吹き飛んで壁に当たってしまった。 「ファイア!」 アンネリーセの声が聞こえたと思ったら、視界が真っ赤に染まった。頬がひりつくほどの熱を感じる。 壁に当たった時に頭を打った俺は視点が定まらず、立とうとしても思うようにいかない。 「大丈夫ですか?」 アンネリーセが床に無様に転がっている俺を座らせてくれた。こんな老婆に助けられるとは我ながら情けない。 「油断しましたね」 「……言葉もない」 AGIがたった1ポイント上がっただけで、あんなに速くなるとは思ってもいなかった。舐め切っていた俺の油断が、この結果だ。 「アンネリーセが居なかったら、ヤバかった。感謝するよ」 「いいのです。今後は油断しないでください」 ステータスを見ると、HPは21ポイントも減っていた。3回ダメージを受けたら死んでしまうくらいのダメージだ。 俺の防具は胸当てしかない。やはり、もっとガチガチに固めるべきだったか。 装備できるのは頭、両耳、首、胴、両腕、両足、右手、左手の8カ所だが、右手と左手はミスリルの両手剣で埋まっている。残りは6カ所の内、胴だけしか装備してない俺は無防備に近いんだろう。 「今ので懲りた。これからはどんな相手でも油断しないよ」 「はい」 体当たりされた直後は痛みがあったけど、1分もするとそれは収まった。頭を打った直後は眩暈もあったが、それもすぐに収まった。 HPで管理されているからか、そういったものはすぐに収まるようだ。 「さっきのはアンネリーセの魔法?」 「はい。私は火と無属性の魔法が使えます。今回は火属性の魔法でグレイラットを倒しました」 「すごい熱量だったね。それだけ威力が高いってことだよね」 「レベル21ですから、この1階層で手古摺るようなことはありません」 だよねぇー。 「魔法使いはレベル1でも強いの?」 「それなりに強いと思います。ただ、ご主人様にはミスリルの剣がありますから、レベル1どころかレベル10の魔法使いくらいの強さがあると思いますよ」 レベル10相当なら油断さえしなければ、この1階層のモンスターに後れを取ることはないだろう。 「よし、進もう」 「はい」 索敵はアンネリーセの魔力感知に任せているが、彼女に任せっきりにするのも止めた。分からないまでも、警戒は怠らないようにする。 「モンスターです。距離30」 「了解」 距離30は30人分。彼女の魔力感知の有効範囲は50から60メートルくらい。 次は、いや、これからは油断しない。 冷静にレベルを確認。グレイラットLv1だ。 レベルが1でも2でも同じ。油断せずに剣を振るだけだ。 「せいっ」 一撃でグレイラットLv1を倒す。動きがよく見えた。あれで肝が据わったと思いたい。 10体目でグレイラットLv2が出てきた。リベンジだ。 タタッタタッタタッタタッ。グレイラットの足音が小気味良い音を刻む。 レベル1のグレイラットよりも速い。1割から2割くらいは速く感じる。だけどもう俺は油断しない。 「はっ」 飛びかかってきたところを、ミスリルの両手剣を横に振る。真っ二つになったグレイラットの死体が消滅する。 「レアドロップです」 ドロップアイテムを拾ったアンネリーセの手の平の上に鋭い歯があった。 「鋭い前歯です」 そのままかよ。 「これは鏃などに使われます」 「ん? 弓は使わないんだよな?」 「軍は違います」 「軍?」 「貴族や国の軍です。弓は武器として有効ですから」 「ジョブに弓士があるの?」 「あります。弓士は兵科として優秀です」 軍での弓士は、剣士や槍士よりも待遇が少し良いらしい。弓士になるにはそれなりの散財をしているからというのが、その理由だとか。つまり金持ちの息子などが弓士になるらしい。 「平民の子は剣士や槍士になって体を張って敵とぶつかり、金持ちの子は遠くからチクチクと敵に矢を射ます。剣士や槍士のほうが死にやすく、弓士のほうが生き残りやすい。そういう裏事情もあるそうです」 「……世知辛い理由だな」 剣士や槍士の部隊が崩れたら、弓士はすぐに逃げるのだとか。それでいいのかと思うが、接近された弓士は弱いから無駄に命を散らさないものだとアンネリーセは言う。平民の命は散らしてもいいのか? 「別に平民でも弓士になっても構いません。要は、それだけの財力があるかです」 何度も言うが、世知辛い。 ただし貴族の場合は弓士の他に、騎士になる人も多いらしい。騎士というのは、身分ではなくジョブのほうだ。ジョブ・騎士は攻防に優れているらしく、花形のジョブなんだとか。前衛でも花形ジョブは人気なんだってさ。 「ご主人様も剣士に転職し、レベルが10になったら貴族から兵士にならないかと誘いを受けるかもしれません」 「レベル10が軍に入るライン?」 「軍はあまり実戦をしません。訓練でもレベルは上がりますが、実戦に比べればわずかです。ですから最初から高レベルの方をスカウトするのです」 「レベル10で高レベルなの?」 「剣士Lv10だと、村人Lv30以上に相当します。スキルがある分、これだけのレベル差があっても剣士のほうが圧倒的に強いのです」 そういえば詳細鑑定も村人は弱いと言っていた。 「アンネリーセは軍に誘われなかったの?」 「誘われましたが、私は探索者を続けることを選びました」 だからレベルが21まで上がったのか。 「軍のほうが待遇はいいの?」 「探索する階層次第ですが、探索者をしていたほうが稼げるでしょう。しかし入隊すれば収入が安定します。探索者と違って常に戦っているわけではありませんから、怪我をするリスクも減ります」 「でも戦争はあるんでしょ?」 「戦争はこの十数年起こっていません。それを考えると、安定を取る探索者も多いです」 戦争が起こらないなら、安定した収入を得るほうがいいか。 「そう言えば、盗賊退治はあるんじゃないの?」 「剣士または槍士と盗賊では、明らかに剣士や槍士のほうが強いです。盗賊と同等の数を揃えれば、盗賊はそこまで脅威ではないです」 数を揃えるのは軍のほうがしやすく、必要なら貴族同士で手を組んで盗賊退治すればいいんだとか。この国の貴族は結構仲が良く、いざと言う時は協力し合うらしい。 ダンジョンの中であまり話し込むべきではない。俺は再びモンスターを求めてダンジョンを進む。 「モンスターです。十字路を左に曲がってすぐです」 「了解だ」 この日、俺は20体のグレイラットを倒し、レベルが1つ上った。 村人は満遍なく経験値を得るが、戦闘ジョブではないから戦闘で得られる経験値はそこまで多くない。戦闘系ジョブのほうがレベルが上がりやすいようだ。 「ご主人様が初日で20体もグレイラットを倒せたのは、そのミスリルの剣のおかげです。普通はパーティーで囲んで何度も攻撃して倒すのです」 分かっているけど、面と向かって言われると自信なくすな……。だけど天狗にならずに済んだから、こういうことを言ってくれるアンネリーセに感謝しなきゃな。 ダンジョンから地上に戻ると空気を肺いっぱいに吸い込み、開放感を実感した。 ダンジョンはなんだかんだ言っても閉鎖された空間だから、空が見えることにホッとする。 探索者ギルドへ足を運んだのは、ドロップアイテムを買い取ってもらうためだ。 ネズミの肉が20個、鋭い前歯が1個―――アンネリーセが1体倒しているから合計で21体分のアイテムだ。 換金総額は1100グリルだった。肉が1個50グリルで20個で1000グリル。前歯が100グリルだ。 1日働いて1万1000円相当の収入だ。アルバイトなら多いと思うが、俺には養わないといけない老婆が居る。 宿代がいくらか分からないが、おそらく宿代を払って食事をしたらいくらも残らないだろう。今さらだけど、宿代を出してくれたゴルテオさんに感謝だ。 とは言え、1カ月すれば自分で宿代を払わなければいけない。もっと稼がないといけないな。 装備を揃えると、購入費以外にメンテナンス費もかかる。ミスリルの両手剣は自動修復があるから耐久値は回復するが、普通の装備には自動修復なんて都合の良い効果はついてない。 耐久値が0になると剣でも鎧でも壊れて使い物にならなくなる。だから鍛冶屋にメンテナンスに出さないといけない。それには金がかかるが、装備を整えるのは決定事項だ。たった3発で死ぬようなダメージを受けるのはさすがに怖い。 ギルドを出るとすでに夕焼けがかなり地平線に沈んでいた。街灯がほとんどないから、夜になると道を歩くのもままならない。宿に帰るとするか。明日は防具を買いに行こう。 宿屋で食事をし、部屋に戻って水で体を拭く。背中はアンネリーセに拭いてもらう。俺もアンネリーセの背中を拭いてやるが、相手が老婆ではまったく興奮しない。 アンネリーセが服を洗濯してくれるというので、頼んだ。俺は料理はできるが、洗濯はできないから助かる。 その間に俺はステータスを確認しよう。レベルは上がったが、能力の上昇はまったく見られない。これではレベルアップと言わないだろと、毒づきたくなる。 「なあ、アンネリーセ」 「なんでしょうか?」 「レベルが上っても能力がまったく上がらないんだが?」 洗濯していた手がピタリと止まって、アンネリーセがゆっくりと俺に視線を向けてくる。目が死んでいるんですけど? 「能力が見えるのですか?」 「うん、見えるよ」 「ご主人様は鑑定が使えるのですか?」 「使えるけど?」 「……はぁ」 アンネリーセが深々と溜息を吐いた。 「ご主人様はアイテムボックスの他に、鑑定まで持っているのですね」 「そうだな……」 「以前も申しましたが、ユニークスキルは珍しいものです」 呆れた風な口調でアンネリーセは続けた。 村人はスキルを持ってないから、俺が鑑定を持っているということは必然的にユニークスキルだと分かってしまうわけか。でもなんか違和感が……? 「ユニークスキルのことはできるだけ隠してください」 「わ、分かった」 「他にユニークスキルを持ってないですよね?」 「2つだけだ」 俺の返事を聞き、洗濯の手が動き出した。 「村人はレベルが上がってもほとんど能力は上がりません。レベルが4くらいになると分かるかもしれませんが、そんなものです」 洗濯しながら語るアンネリーセの背中を見ていると、働き者のお婆ちゃんに見えてくる。 しかし村人はほとんど成長しないと聞いてはいたが、ここまで酷いとは思ってもいなかった。できるだけ早く剣士にジョブチェンジしたいぜ。 ん? これはなんだ? ジョブを確認していたら、その中に探索者というジョブがあった。 取得条件は最初にダンジョンに入った時に、単独でモンスターを20体倒すことらしい。 「20体倒しておいて良かった……」 「何か言いましたか?」 「いや、なんでもないよ」 探索者は戦闘でもレベルアップできるジョブだから、ジョブを村人から探索者に変更した。 【ジョブ】探索者Lv1 【スキル】ダンジョンムーヴ(微) 宝探し(微) 【ユニークスキル】詳細鑑定(低) アイテムボックス(低) ダンジョンムーヴはダンジョン内をショートカットして移動できるというものだ。ただし一度でもその場所に行っていないと移動できない。便利だと思うけど、まだ1階層のボスさえ倒してない俺では多少便利なスキルという程度。これから階層を重ねていけば、神スキルになると思う。 それに対して宝探しのほうは使えそうだ。近くに宝箱があると、その存在を感知できるらしい。早く宝箱というものを拝んでみたい。いや、中身のお宝を拝みたいものだ。 あっ、さっきの違和感が分かった! ステータスを見れば、詳細鑑定を使わなくても能力の確認くらいできるじゃないか。なんでアンネリーセは鑑定だと思ったんだ? 「な、なぁ……」 「はい」 「ステータスって知ってる?」 恐る恐る聞いた。なんでこんなにびくつくのか自分でも不思議だ。 「聞いたことはありません」 「そ、そうか……」 ステータスが使えるのは俺だけ? もしかしたら召喚されたあいつらも使えるのか? またため息を吐かれるから、しばらくアンネリーセには黙っておこう。こういうのはタイミングが大事だ。うん、そうしよう。 --- ## 011_露店にはご注意を ## ■■■■■■■■■■ 011_露店にはご注意を ■■■■■■■■■■ 異世界転生6日目は買い物から始まる。 防具屋で頭、両腕、両足の装備を物色した。両耳と首は防具枠ではなくアクセサリー枠だから店が違うらしい。 ・迷宮牛革のヘッドギア : DEF+4 VIT+1 MIN+1 耐久値13/13 ・迷宮牛革のグローブ : DEF+4 VIT+1 DEX+1 耐久値14/14 ・迷宮牛革のブーツ : DEF+4 VIT+2 耐久値15/15 アンネリーセの分も買おうとしたが、ヘッドギアは要らないと言われた。髪が乱れるのが気になるようだ。老婆が何をと言いそうになったが、女性のおしゃれに年齢は関係ないと思うようにした。 ヘッドギアの代わりに魔法使いの帽子を購入した。 ・魔法使いの帽子 : MDEF+2 INT+2 MIN+1 耐久値9/9 ・迷宮牛革のグローブ : DEF+3 VIT+2 耐久値13/13 ・迷宮牛革のブーツ : DEF+5 VIT+1 耐久値14/14 同じ迷宮牛革のグローブと迷宮牛革のブーツでも能力補正に微妙な差がある。 これは今までで分かっていたことなので、できるだけ良いものを選んだ。 「初心者でこれだけの装備は誰もいません」 「そうなの?」 「あれを見てください」 アンネリーセに促されて見た方向には、村人の5人パーティーが居た。 「彼らは宿に泊まって食べるだけで資金が底を突き、防具らしい防具を装備していません。あれが初心者の実情です」 服に木の板を縫い付けている村人も居る。そういった工夫で少しでもダメージを軽減しようとしているのが分かる光景だ。 武器もかなり使い込んでいる銅の剣や銅の槍で、耐久値の上限がかなり減っている。 武器や防具はメンテナンスを何度も繰り返すと、耐久値の上限が減っていく。そして最後にはメンテナンスさえできなくなって壊れるのだ。そこまで使い続けるのは稀なことらしいが、人から譲り受けた武器は気をつけないといけない。 「アクセサリーを売っている店はどこかな?」 「アクセサリーまで買うつもりですか?」 「いけないかな?」 「いえ、装備を整えるのはいいことです。生還率が上がりますから」 「うん。俺もそう思う。だから案内してくれるかな」 アンネリーセは頷き、歩き出した。 案内してもらったのは大通りから脇道に入った、怪しげなものを売っている露店だ。 「稀に良いアクセサリーが見つかります」 アンネリーセは小声でそう言うと、地面に布を敷いてアクセサリーを並べた怪しげな露店の前で立ち止まった。 これは俺が詳細鑑定を持っている前提で連れてきたんだと思う。俺なら下手なものを掴まされないだろうという信用があるのだろう。 「良いものが揃っているよ。これなんか隣の国の王族が使っていたものだぜ」 ドジョウ髭を生やしたいかにも怪しいおじさんが、煌びやかなネックレスを見せてきた。 「今日は特別に10万グリルだ。これ以上お値打ちなものはないぜ」 王族のネックレスが100万円相当か。なんとも怪しいぞ(笑) ▼詳細鑑定結果▼ 王族のネックレス(偽物) : 見た目が煌びやかなネックレス。装備としても装飾品としても価値はない。 さすがは怪しそうなおじさんだ。二束三文のネックレスを100万円とは、頭が下がる。 「大金だね……こっちのネックレスはいくら?」 地味な銀色のネックレスの値段を聞く。 「それは銀製のネックレスだから3万グリルだぜ」 ▼詳細鑑定結果▼ 鉛のネックレス : 含有率は銀が1パーセント、鉛が91パーセント、クロムが8パーセント。長くつけていると、鉛中毒になる。 銀は含んでいるが、これを銀製のネックレスとして売るその根性が凄い。しかも鉛中毒のおまけつきだぞ、これ。 こんなものを30万円で買うわけない。偽物を売るだけならともかく、病気にする呪いつきだから怒りを覚えるよ。 「それじゃあ、このピアスは? なんかショボイ見た目だけど?」 「それは500でいい」 地味でショボそうなピアスは5000円だった。 マジックピアス : INT+5 MIN+3 耐久値16/16 できればSTRやVIT、あとAGIが上がる装備が欲しかったけど、これはアンネリーセに丁度いい装備だ。 もちろん500グリルで購入した。店主は高くて役に立たないものを勧めてきたけど、買うわけがない。 「これ、アンネリーセがつけておいて」 「ありがとうございます」 他の怪しげな露店の商品も見て回ったが、どの店もゴミのようなものしか売ってなかった。でも最後に立ち寄った露店でいいものを見つけた。 「おじさん。これいくら?」 「それは金貨8枚だ」 金貨8枚は8000グリル。8万円くらい。 「それじゃあ、これは?」 「白金貨3枚だ」 3万グリル、30万円くらい。 「こっちは?」 「……銀貨3枚」 300グリル、3000円くらい。 嫌そうにそう言ったのは、安いからだろう。 俺は銀貨3枚を渡して購入した。 こういうのは日本でも異世界でも同じで、欲しいものの値段は最初に聞かない。いくつか確認したうえで、狙ったものを手に入れるのがセオリーだ。 俺が買ったアクセサリーは鈍銀色のネックレス。 幸運のネックレス : 即死を3回だけ回避する(3/3) 能力は上がらないものの、即死を3回も回避してくれる優れものだ。お守りとして丁度いいと思う。 これは俺がつける。即死がないだけで、気分が軽くなった。 「鑑定があるとこういった買い物に失敗しないけど、普通は騙される人も居るんだろ?」 「居ると思いますが、露店でまともなものが売られているほうが稀なのです。それでも買うという人は、損をするのを覚悟して買っています」 「そういったことを知らない人だっているんじゃないか?」 「いてもそれは自己責任です」 この世界は偽物を売っている奴が悪いのではなく、買う奴が悪いのか。 「悪質なものを買わされた時は、政庁に訴えることができます。粗悪品と知っていて高額で売るのは犯罪ですから、政庁がある程度は対処してくれます。ただ、露店の主人もそれが本物だと思って売っている場合がありますので、そういった場合は買った側の責任です」 レコードカードがあるから、粗悪品を高額で売ると犯罪歴に詐欺などが記録されるらしい。この世界はレコードカードのおかげで冤罪がほとんどないんだろうな。 何はともあれ、どう見たって怪しい人たちなんだから、その時点で買わないことが一番。自己防衛するのが当然だから、どうしても欲しいなら鑑定持ちを連れて行けということだな。 ただ、あの鉛中毒になるネックレスはダメだ。こっそり政庁にチクってやろう。匿名の投げ文(告発文)で動いてくれるといいんだが……。 こっそりなのは、俺が詳細鑑定を持っているのを隠すため。ユニークスキルは隠しておくと決めたから、それを疑われるようなことはしない。 その後、普通にアクセサリー店に行ったが、良い感じのものがなかった。能力アップのアクセサリーはあったけど、めちゃくちゃ高いんだ。安いものは50万グリルだから買えないことはないけど、買ったらお金が底をついてしまう。それにそこまで欲しい能力アップではなかったから、買わなかった。 これが適正価格で、露店で買った2つは掘り出し物なんだとアンネリーセは言う。俺もそう思うだけに、店に文句は言わない。 今日は買い物で1日が終わってしまったから、明日は朝からダンジョン探索だ。 今日買った防具でかなりDEF値が上がった。安心を買ったと思っている。 --- ## 012_転職は神殿で ## ■■■■■■■■■■ 012_転職は神殿で ■■■■■■■■■■ 転生7日目。今日の朝はやけに冷える。どんどん冬に向かっているようだ。 「アンネリーセは寒くないか? 寒かったら遠慮なく言ってくれよ」 「シーツ1枚ではさすがに寒いです。今後はダンジョン内で使う毛布を使ってもいいですか」 「それなら、宿用に厚手の毛布を買おうか」 「いいのですか?」 「いいとも」 ダンジョン内で使って汚れた毛布を宿で使うのは気が引ける。無料で泊まっているだけに、余計に気になってしまう。俺は小市民なんだよ。 アンネリーセが若くて可愛い女の子なら肌を寄せ合って寝るのもいいが、無理だ。目覚めた時に容姿が魔女のアンネリーセの顔が目の前にあったら、生気を吸われてないか心配になってしまう。 宿を出ると息が白かった。もう冬じゃないか。 「もう冬なのかな?」 「まだ秋ですよ。ただ、今日は少し寒いですね」 空を見上げると、薄い雲があるだけで真っ青な空が広がっていた。よい天気だ。こういう空を見ると、不思議と元気が出る。 ダンジョンに行く前に、厚手の毛布を買った。誰も見てないところで、アイテムボックスに収納してアンネリーセの歩速に合わせてゆっくりダンジョンへ向かった。 今日もダンジョン前で買い食いをする。昨日は池イカだったから今日は肉にしようと思ったが、ネズミ肉のことが頭をよぎったから池イカにした。 今日は池イカの姿焼きを5本、ゲソ焼きを5本買った。俺とアンネリーセがそれぞれ5本ずつ手に持ってダンジョンの中に入ると、誰も居ないことを確認して9本をアイテムボックスに収納。 1本だけ残ったゲソ焼きをアンネリーセに食べていいと言ったら、美味しそうに食べた。 さすがに9枠も使うとアイテムボックスを圧迫するが、どうせすぐにアンネリーセが消費するから構わない。 ダンジョンの壁に向かう俺、それを訝し気に見るアンネリーセ。 ───ダンジョンムーヴ。 壁にドアが現れた。簡素な木のドアだ。 「これは……まさかダンジョンムーヴ……ですか?」 「さすがはアンネリーセだ。前回進んだ場所に繋がっているよ」 「………」 アンネリーセの手を引いてドアを開けてその先の通路に出る。 俺たちが通るとドアは消えてなくなった。 消費MPは10ポイントか。大した消費量ではない。これなら帰りも使えるだろう。 「ご主人様。ユニークスキルは2つしか持っていないと仰っていましたよね?」 「うん。2つしか持ってないよ」 「では、ダンジョンムーヴはどういうことですか?」 「それはジョブが探索者だからさ」 「……はい?」 凄く間を開けて聞き返されてしまった。 「ご主人様のジョブは村人ですよね?」 「探索者の取得条件を満たしたから、転職してみたんだ」 「みたんだ……って、そんな簡単に……はぁ」 大きなため息だ。だから言うの嫌だったけど、せっかく良さそうなジョブが手に入ったんだから使わないとね。 「神殿以外で転職できる人なんていませんよ。それ、絶対に内緒ですからね!」 「お、おぅ。分かった」 可愛い言い方だけど、魔女顔をずいっと近づけられると恐怖で後ずさってしまう。結構怖いんだから、勘弁して。 でも以前ジョブを詳細鑑定した時、神殿なんて言葉は出てこなかったぞ? もしかしてもっと詳しく表示させないといけないのか? ▼詳細鑑定結果▼ ジョブ : 【ジョブ】は一定の条件を満たすと、新しいジョブに転職可能。通常は神殿で転職するが、トーイのみステータス画面を開いて念じるだけで行える。現在の転職可能ジョブは、旅人、村人、料理人、商人、運搬人、復讐者、転生勇者。 内容が増えている……。 そういえば、前回詳細鑑定した時の熟練度は(微)だったけど、今は(低)になっていたっけ。 いや、違うな。詳細鑑定はこちらの要求レベルを上げるまでは、やる気のない内容を表示するんだった。魔導書の時にそれに気づいていたじゃないか。もっと情報が欲しいと、要求すればこの内容が出てきたはずだ。 「もしかして他にも転職できるジョブがあるのですか?」 魔女顔が近いのですが。 「ないことも……ないかな……」 「どれだけのジョブに転職できるのですか?」 「えーっと……旅人、村人、料理人、商人、運搬人……ごにょごにょ……」 「運搬人の後、なんと言ったのですか?」 「ふ……しゃ……て……い……しゃ」 「もっと大きな声でお願いします」 耳に手を当てて、向けてくる。 復讐者と転生勇者のことは知られたくないんだけど……。 「誰にも言わない?」 「誰にもいいません。そもそも私は奴隷ですから、守秘義務を負わされております」 「それじゃぁ言うよ」 「はい。どうぞ」 「復讐者と転生勇者」 「……… ……… ……… ……… ……… ……… 今、なんと言いました?」 めちゃくちゃ間を空けられたんですけど! 「復讐者と転生勇者」 「……聞き間違いではなかったようですね」 疲れた顔のアンネリーセが目頭を揉みほぐした。しわくちゃの顔だから、分かりにくいけど、かなり疲れていそう。 「ははは……なんだかごめん」 頬をかきながら、なぜか謝ってしまう。悪気はないんだよ、悪気は。 「いえ、ご主人様は悪くありません。ただ、常識から外れているだけです」 それ俺を貶してる? 「しかしご主人様が勇者だとは……」 「いや、勇者する気ないから」 「これも天啓でしょう。この寿命尽きるまで、ご主人様の偉業を補佐させていただきます」 「だから勇者しないから」 「もっとも私の寿命はあまりないでしょうが……」 アンネリーセは1人でブツブツ言っている。俺の話、聞いてる? アンネリーセの意識が帰ってくるまで少し待って、探索を開始する。 スキル・宝探しはダンジョン内で自動発動しているから、近くに宝箱があったらなんとなく分かるらしい。 「1階層で宝箱が発見されたという話は聞いたことありません」 くっ、残念無念。 すぐにグレイラットを発見。レベルは2だ。 一撃で倒す。前回よりも体が軽く感じた。しかも前回は速く感じたグレイラットの動きが遅く感じられた。いや、速いのは速いが、以前ほど神経をすり減らすほどの速さではなくなったという感じか。これだけでも転職した意味があったというものだ。 「剣の扱いは全然ダメですが、前回よりも動きがいいです」 「そ、そうか」 アンネリーセは歯に衣着せぬ物言いをするが、悪い気分ではない。むしろ素直に指摘してくれるほうがありがたいくらいだ。 「しかしなんで勇者に転職しないのですか?」 「勇者などと知られたら、絶対面倒なことがおこるだろ?」 「それもそうですね。これまで勇者と言えば、召喚が当たり前でした。それがご主人様は転生されているのですから、凄く面倒なことになりそうです」 言葉が弾んでいるぞ。心なしか表情も明るいよね。あんた、楽しんでない? ところで『これまで』ということは、勇者召喚は何度も行われているということか。背後関係が分からないけど、関わり合いになりたくないものだ。 現れたグレイラットを切り伏せる。調子がいい。 「それにしても、どうしたら探索者に転職できたのですか? 一般的にはダンジョンの10階層のボスを倒さないと、取得できないジョブのはずですが?」 ネズミ肉を拾い上げながらアンネリーセはそんなことを聞いてくる。俺が転生勇者に転職できると知ってから、距離が縮まった? 復讐者もあるんだけど、それには触れてないけど無視? 「ダンジョン探索初日に単独でモンスターを20体倒すと、探索者に転職できるらしいぞ」 「ジョブの転職条件はいくつかあると言われていましたが、そんな取得条件があったのですね」 全ての転職条件が知られているわけじゃないようだ。謎が多いほうが面白いと思うけど、それで転職の幅が狭まっている。 探索者のようにダンジョン探索初日に単独でモンスターを倒せとか、かなりハードルが高いから無謀な挑戦が行われないだけマシかもしれないけど。 「ジョブの探索者ってほとんど見ないけど、なんで? 10階層のボスを倒せば取得条件を満たすんだよね?」 「10階層を探索する頃には多くの者が剣士や槍士に転職しています。探索者は便利なのですが、戦闘力では剣士や槍士のほうが上ですから転職する者は滅多にいないでしょう」 戦闘力重視で、利便性は後回しか。それは脳筋の考え方だな。移動をバカにしてはいけないんだぞ! そんな話をしていると、なんだか違和感を覚えた。普通の通路で石の壁がある方向からだ。 「どうかしましたか?」 俺が足を止めたことに、アンネリーセが首を傾げる。 「いや、こっちに宝箱がありそうな……ははは、気のせいだよな」 「そちらは壁ですから、気のせい……もしかして……」 アンネリーセが杖で壁をコンコンと叩き始めた。真剣な顔だ。 「ご主人様。少し下がっていただけますか」 アンネリーセが言うところまで下がる。何をする気だ? 「───マナハンド!」 アンネリーセから半透明な太い腕が伸びて、壁を殴り始めた。ガツンッガツンッと激しい音がして、壁が崩れた。 「おおおっ!」 崩れた壁の向こうに通路があった。こっち側と変わらない石造りの通路だ。 「まさか1階層にこんな通路があるなんて……」 「こういうのは珍しいのか?」 「珍しいです。こんなこと聞いたことがありません。宝箱を隠しているのでしょう。ダンジョンも手の込んだことをします」 聞いたことがないというのは、情報を隠している可能性もある。こういった情報を開示したら、宝箱を他の人に取られるかもしれないからね。 「罠だと魔力がありますが、これは他の壁と同じで気づけませんでした。私としたことが、迂闊でした」 「魔法使いは万能じゃないんだから、そんなに自分を責めたらいけないよ」 「ありがとうございます」 それよりもお宝を拝見しましょう! 通路は10メートルで行き止まりになっていて、その行き止まりのところに宝箱が鎮座している。 「大丈夫です。罠はありません」 「開けるよ」 「はい」 金属の金具で補強された頑丈そうな木の宝箱の蓋を開ける。カギ穴はあるけど、カギはかかってない。 「ポーション?」 無色透明の液体が入った瓶だ。 俺はポーションを3種類持っている。HPを回復するもの、MPを回復するもの、毒を解毒するもの。HP用が青色、MP用が緑色、毒用が黄色だ。そのどれとも違う無色透明のポーションが宝箱から得られた。 まさかただの水なわけないよな? 「こ、これは!?」 「どうしたんだ、アンネリーセ」 「ま……さか」 アンネリーセの様子がおかしい。体がわなわなして目が血走っている。息も荒く、死んじゃうのか? 魔女顔で目が血走るとマジで怖いから止めて。 「おい、大丈夫か。ちょっと座れ。落ちつくんだ」 いったいアンネリーセに何があったんだ? このポーションを見て目の色が変わったけど、このポーションはなんなんだ? --- ## 013_呪いと解呪ポーション ## やっと美少女登場! 長らくおまたせしました(o*。_。)oペコッ --- ## 014_グレーターラット ## ■■■■■■■■■■ 014_グレーターラット ■■■■■■■■■■ ダンジョン内で話すことではないが、詳細鑑定のことをアンネリーセに話した。俺の個人情報は他言できないから、彼女から他人に洩れる心配はない。 出会ってまだ1週間のアンネリーセを信頼するほど知っているわけではないが、奴隷の制約がなくても俺の不利になることは言わないだろう。 何が言いたいかというと、アンネリーセなら俺を裏切らない。仮に奴隷じゃなくてもだ。そんな根拠のない自信がある。 「承知しました。ご主人様のユニークスキルはアイテムボックスと詳細鑑定ですね。それを踏まえて、力の限り補佐いたします」 老婆だった時も可愛らしい仕草をする時があったけど、この姿でそれをされるとヤバい。惚れてしまいそうだ。 ダンジョン探索を再開したが、アンネリーセの歩速が速い。今まで俺が合わせていたのに、今度はアンネリーセが俺に合わせて遅くしている。本当に変われば変わるものだ。 戦うのは相変わらず俺だ。俺のレベル上げだから当然だな。それにミスリルの両手剣のおかげで苦戦しない。 5体目のグレイラットを倒すとレベルが上がった。グレイラットのレベルが2ばかりだから単純比較できないけど、村人の時よりレベルアップが速いと思う。 さらに12体のグレイラットを倒して進むと、行き止まりに出てしまった。 「行き止まり?」 「いえ、ここはボス部屋です」 唐草模様のような彫刻があしらわれた石の壁だと思っていたものは、ドアだったようだ。 2メートルくらいまで近づくと、そのドアがゆっくりと開いていく。自動ドアのようだ。 「誰も居ません。ボスを倒しましょう」 ボス部屋の中に誰か居ると、開かないらしい。 「今の俺でも、倒せるだろうか?」 「正直言いますと、ご主人様の戦闘技術は素人です。普通なら倒せないと思います」 「お、おう……」 本当に正直に言うよねー。 「ですが、ご主人様には私がついています。1階層のボスに後れをとるものではありません」 そりゃそうだ。レベル21の魔法使いは伊達ではないよな。でも、ここは俺1人でボスを倒したい。 「俺1人でボスを倒したい。そのアドバイスをくれ」 「1人で……ですか?」 「アンネリーセに頼るのは簡単だけど、それじゃあいけないんだ。だから俺が勝てるようにアドバイスが欲しい。今の俺では倒せないからレベルを上げろというものでも構わない」 「素晴らしいお考えです!」 「え? そ、そうかな……?」 アンネリーセはピョンピョン跳ねて、「さすがです」を連呼して俺を持ち上げる。マジ可愛いんだけど。 「ミスリルの両手剣がありますし、防具もしっかりしています。苦戦すると思いますが、ご主人様ならボスを倒せると思います。動きが速いですから、しっかり見て戦ってください」 「しっかり見ろ、か?」 「はい。ご主人様ならやれます! 絶対にボスを倒します!」 アンネリーセは若くなって、積極的になった気がする。今までまともに体を動かせなかったから、若い体を取り戻してはしゃいでいるのかも。 さてどうしたものか。今のイケイケなアンネリーセの言葉を信じていいのだろうか? 信頼できないとかではなく、アンネリーセが浮かれていることが心配だ。 「分かった。ボスと戦おう!」 「はい!」 目をキラキラさせて俺を見ないでほしい。可愛すぎるんだよ。 中に入ると、誰も居ない。そりゃそうだ、誰か居たらドアは開かないのだから。 「ん? 何か落ちてるぞ」 部屋の奥に何かある。あれがボスか? いや、違うな……。 「どうやら私たちの前に入った探索者は死んだようです」 「はい?」 「あれはボスに倒された探索者が所持していたものです」 「マジか……」 ボスに倒された探索者の死体はダンジョンに吸収されるが、持ち物は吸収されずに残るらしい。 「1階層ではそうではないと思いますが、上のほうではボスに倒された探索者の持ち物が長い間放置されて、武器や防具が変質することがあるらしいですよ」 「変質?」 「鋼の剣が魔剣になっていたりします」 「魔剣……」 ファンタジーの定番武器を手に入れたいと思うのは、俺だけじゃないと思う。いつか魔剣を手に入れよう。 床から光の粒子が立ち上る。 「ボスが現れます」 ミスリルの両手剣を構え、ボスの出現に備える。 ボワッと光の粒子が霧散すると、グレイラットが現れた。 「グレーターラットです」 容姿は同じだが、大きさが倍くらい違う。これがボスか。 ステータスはAGIが高い。アンネリーセが言うように、かなりの速度だと思われる。 ATKとDEFは今の俺よりかなり低い。これならミスリルの両手剣の一撃で倒せるだろう。 先手必勝とばかりに、一気にグレーターラットとの間合いを詰める。 「てやっ」 ミスリルの両手剣を振り切ったが、グレーターラットは横に跳んで避けた。 「何っ!?」 グレーターラットが飛びかかってきた。 「速いっ」 なんとかミスリルの両手剣で受けたが、動きが速くて厳しい戦いになりそうだ。 防戦一方。俺はグレーターラットの動きに目を慣れさせることにした。 防具を買って正解だった。掠った程度ではHPの減りは1か2ポイント。これなら耐えきれる。防具は本当に大事なんだな。 掠り傷は増えていくが、まだ耐えられる。目を慣らし、奴の動きを見極めろ。こっちは一撃必殺だから一発当てればいいんだ。あいつのように手数は要らない。 ダンゴムシのように守りに徹し、その時が来るまで俺は待った。 大分目が慣れてきた。それでもグレーターラットの動きが速いのに変わりはない。たった一発のために、我慢して力を溜める。 「ご主人様なら大丈夫です! 必ずグレーターラットを倒せます!」 壁際でアンネリーセが応援してくれる。ローブ姿ではなく、チアガールの服装で応援してほしい。 いかんいかん。今はそんなことを考えている場合じゃない。 「ふふふ」 思わず笑いが零れる。 俺よりも強いグレーターラットを相手にして気が触れたわけではない。その逆でこんなに強いグレーターラットを相手にしているのに、バカなことを考える余裕があると思ったら笑えてしまったんだ。 「ご主人様ーっ」 手を振って応援するアンネリーセを見る余裕もある。 おそらくアンネリーセが控えてくれるから、俺が危なくなっても助けてくれるという安心感がこの余裕を生んでいるんだと思う。だからと言って、アンネリーセに頼るつもりはない。 我慢に我慢を重ね、その時がとうとうやって来た。ここまで我慢した甲斐があった。 グレーターラットの動きは単調だ。上、下、下、上、中、下、上、中。攻撃パターンがこの繰り返しなのだ。俺が攻撃した時と、反撃した時は違うが、防御に徹した時はこのパターンで攻撃を繰り返す。 速いため動きを掴むのは難しいが、このパターンさえ分かれば対処は簡単だ。 グレーターラットの攻撃パターンの中でも、1回目の中の攻撃をする時に溜めがある。誘っているようにも見えるが、その可能性は低いはずだ。低いが可能性がないわけではない。だからある意味賭けになる。 「俺の運とお前の頭。さて、どっちがいいかな?」 上、下、下、上───来た、ここだっ。 俺は迷わず床を蹴った。これが誘いなら俺は大ダメージを受けるだろう。だがそれを恐れていては、勝機は掴めない。勇気を振り絞り―――俺が勝つための乾坤一擲の攻撃を仕掛ける! 「はぁぁぁぁぁぁぁっ」 グレーターラットの目が見開かれた。避けようとしたが遅く、俺のミスリルの両手剣がその眉間に深々と突き刺さった。 ガラスが割れたような破壊音。同時にグレーターラットの姿が消滅した。 「か、勝った……」 「さすがはご主人様です!」 「おっと」 アンネリーセが飛びついてきた。受け止めたが、尻もちをついた。 俺は今、アンネリーセの胸に顔が埋まっている。 このまま死んでもいいくらいの幸福が俺の顔を包んでいるんだ。 「………」 「ああ、ご主人様。ご主人様。ご主人様。ご主人様。さすがです」 前言撤回。死ぬ! 死んじゃうから! 息できないよ! 「………」 両手でタップして幸福に降伏じゃなくて、早く息しないと死ぬっ! 「あっ!? ご、ごめんなさい」 「ぜぇはぁぜぇはぁ……だ、大丈夫だ。ある意味、とても幸せだったから」 「え、何ですか?」 「いや、なんでもない」 願望は時に人を殺す。覚えておこう。 「ご主人様。ドロップアイテムです」 アンネリーセが拾って俺に見せてくれた。 「これは尻尾?」 「グレーターラットの尻尾です。薬の材料になります」 「薬の材料?」 ▼詳細鑑定結果▼ グレーターラットの尻尾 : 食当たり用の薬の材料になる。グレーターラットのノーマルドロップアイテム。ギルド換金額は1500グリル。 --- ## 015_ラッキースケベ神の自称使徒 ## ■■■■■■■■■■ 015_ラッキースケベ神の自称使徒 ■■■■■■■■■■ 1階層のボスであるグレーターラットを倒した俺は、もう一度グレーターラットと戦った。 実を言うと、1回目のグレーターラットを倒したところで探索者のレベルが3に上った。 さらに、新しいジョブを取得していたから、そのジョブに変えて2回目のグレーターラット挑戦というわけなんだ。 両手剣の英雄 : 智勇を兼ね備え両手剣を扱う者。スキル・指揮(微)、全体HP自動回復(微)、身体強化(微)、バスタースラッシュ(微)が使える。取得条件は知恵と勇気を示し、初めて戦ったボスモンスターを単独で討伐すること。 スキル・指揮(微) : 指揮下にある全ての者のSTR、VIT、AGI、INT、MIN、DEXを5パーセント上昇させる。指揮下に置ける人数は10人まで。(パッシブスキル) スキル・全体HP自動回復(微) : 自身と指揮下にある全ての者のHPを回復させる。回復量は毎分1HP。(パッシブスキル) スキル・身体強化(微) : 自身のSTR、VIT、AGI、INT、MIN、DEXの各能力値を10ポイント上昇させる。(パッシブスキル) スキル・バスタースラッシュ(微) : 両手剣技。剣先から5メートル以内の敵にATK2倍の斬撃を飛ばす。消費MP5。(アクティブスキル) 新ジョブの両手剣の英雄は、レベル1でレベル3の探索者とSTRやVITの値が同じ8(装備とスキルは含んでいない)になる。他の能力はやや低いが、スキル身体強化の効果でSTR、VIT、AGI、INT、MIN、DEXにそれぞれプラス10ポイントされることから、探索者よりもはるかに強い。 ちなみにスキル・指揮の効果は俺にはない。これは『指揮下』にある人用の強化スキルだ。 低レベルで転職を繰り返していることから本来の強さは分からないところだが、これは良いと思った。 アンネリーセに両手剣の英雄のことを聞いたが、英雄は滅多に現れない珍しいジョブだそうだ。それでも過去にはそれなりの数の英雄が現れている。 勇者のような地雷ジョブかと思っていたが、英雄はこの世界の人で何人も出ていると聞いて使うことにした。それにダンジョンを出たら他のジョブにしておけばいいだろう。 グレーターラットの動きがとてもゆっくりに見える。身体強化のプラス補正は凄いな。これでMP消費がないんだから、頼もしい限りだ。 「はっ」 グレーターラットよりも速く動き、その体を真っ二つにした。 あの攻撃パターンの隙を突くまでもなく、呆気なく勝ってしまった。あんなに苦労したグレーターラットなのに、ジョブが違うだけでこんなにも簡単に勝てる。 英雄系はこれ以上ない勇者並みのジョブらしい。戦闘力も高いが、味方を強化できるという利点もある。 勇者のように魔法は使えないらしいが、それを補って余りあるスキル構成だ。 「英雄が勇者並みなら、なんで勇者召喚があるんだ?」 「英雄が現れるのは運に左右されますが、勇者は召喚すれば現れます。こちらのほうが確実なのです」 「なるほど……」 効率や確実性を追求すれば、勇者というわけか。 良い武器と防具さえあれば、ボスは倒せるだろう。ただし知恵と勇気を示さなければいけないから、これが取得のハードルを上げているわけか。 俺の場合はグレーターラットの攻撃パターンを見抜いて勇気をもって攻撃に移ったから、この2つの条件を満たしてボスを倒した。そのおかげで両手剣の英雄を得られたわけだ。 「あ、レベルが上がっている」 まさか1体でレベルアップするとは思わなかった。さすがはレベル5のボスだ。 「新しいジョブは得られましたか?」 「そんなに簡単に得られたら、ジョブのありがたみがないだろ」 探索者にしても英雄にしても、かなり苦労する取得条件だ。俺はたまたま良い武器を持っていたから取得できたけど、そんなに簡単に新しいジョブが出るわけではない。 「そうですか。残念です」 俺のジョブのことなのに、自分のことのようにしょんぼりするアンネリーセが可愛すぎるだろ! 「それはそうと、英雄がレベル3になるまでグレーターラット狩りをしていいかな?」 「はい。お供します」 ボス部屋から2階層へ入り、すぐにダンジョンムーヴを使って1階層のボス部屋前へ移動。 グレーターラットのレベルは5のためか、今の一戦で両手剣の英雄のレベルが2に上った。 あと2、3回戦えば、レベル3になるだろう。 それから2回で両手剣の英雄のレベルが3になった。 「レアドロップです」 レアドロップは幸運の尻尾だった。なんでもレアドロップ率が少しだけ上昇するらしい。これは装備品扱いにならないため、ベルトにつけておく。これだけで5パーセントだが、レアドロップ率が上がるらしい。 「高レベルのパーティーでは、この幸運の尻尾を必ず持っています。普通は20回以上狩って手に入れるようなアイテムですから、4回目でドロップしたのは幸運でした」 「そうなんだ。ラッキーだな」 幸運の尻尾というと俺はウサギを思い浮かべるんだが、この世界ではネズミの尻尾らしい。世界が変われば、常識も変わる。そういうことなんだろう。 今日の収穫はネズミの肉が16個800グリル、鋭い前歯が1個1000グリル、グレーターラットの尻尾が3個4500グリル。総額で6300グリル(6万3000円相当)。 まあまあな金額になった。これなら宿代と食費、それに装備のメンテナンス費を出してもそれなりに余ると思う。 あとボス部屋にあった遺品は、どれも二束三文だった。持ち帰るのがバカらしいから、置いてきた。誰か他の人が持ち帰るだろう。 ボスドロップ品はノーマルでも結構な金額になる。ボス周回は金策に丁度いい。 これも探索者のダンジョンムーヴがあるからできることだ。これだけでも探索者は良いジョブなのに、誰も取得しようとしない。 「この装備のメンテナンスをしてくれる店か職人を知っている?」 ミスリルの両手剣は自動修復があるからメンテナンスフリーだが、防具のほうはそうはいかない。 これまではダメージを受けなかったが、今日はグレーターラットに何度も攻撃を受けてしまった。 アンネリーセは少し考え、口を開いた。 「職人は知っていますが、まだ職人に出すほど悪くなっていませんから、私が手入れをします」 「それなら俺が……」 「ご主人様にそんなことはさせられません。私が責任をもって手入れします!」 「お、おぅ……頼むよ」 「はい」 宿に帰ったら手入れしてくれるらしい。 帰る途中に手入れ用の油を購入した。 「防具や武器は命を預けるものです。手入れは小まめにしなければいけません」 詳細鑑定もメンテナンスは小まめにしないといけないと言っていた。だから俺は職人に任せるものだと思っていたんだ。 そう言えば、ネイルーザさんは古着で剣を拭けと言っていた。あれれ? アンネリーセも古着で装備を拭くの? 老婆のアンネリーセが穿いていた下着……でも今は若々しいアンネリーセが穿いている。これはどう考えればいいんだろうか? 興奮するべきか、なえるべきか……人生の分かれ目のような、重大な分岐点かもしれない。 宿に到着し、部屋に戻って服を着替える。 普通に脱ぎ始めた俺だったが、アンネリーセも脱ぎ始めているのを見てピタリと手が止まった。 「あ、あの……」 「はい。なんでしょうか?」 アンネリーセは平気な顔で何をしているのだろうか? 老婆じゃないんだから、それは勘弁してほしい。いや、逆に見たいんだけど、見ていいのか? ここはご主人様の威厳を見せよう! 「アンネリーセ」 「はい」 服から手を離したアンネリーセが俺を見つめてくる。 「俺は男だ」 「はい。最初知った時は驚きましたが、知っています」 「え、驚いてたの? どこら辺が? まったく無表情だったよね?」 「そんなことないです。とても驚きました。ただあの時の私は表情筋を動かすのも大変だっただけです」 「な、なるほど……」 やっぱ服を着ていると女の子に間違われるらしい。 「男物の服を着ていただろ?」 「男性用の服を着る女性は多いです。特に体を動かす職業の方は多いですよ」 それで色気のない女性をよく見たのか!? いや、今はその話ではない。俺の威厳を示すんだ! 「男の俺の前で裸になるのに抵抗はないのか?」 「買われてまだ数日ですが、すでに私の裸はご主人様にお見せしてますから……」 それ老婆だったし! 胸だってシワくちゃで垂れ下がって臍まであったし! 「アンネリーセは若返った。その若くて瑞々しい体を俺に見られるのは大丈夫なのか?」 「恥ずかしいです。ですが私はご主人様のものですから……」 どんどん声が小さくなっていく。 「あまり見ないでいただけると……少しだけ目を閉じていただけると……」 見られたら恥ずかしいんだね。分かる。分かるよ、その気持ち。 だが、断る! いや、見るだろ、普通。むしろ見ないほうが、ラッキースケベの神様に失礼だ。 この場面ではラッキースケベではないかもだが、俺はラッキースケベ神の自称使徒だからな! 「アンネリーセがどうしても嫌だと言うのなら俺は目を閉じるが、そうじゃないなら俺のことは女の子だと思ってくれ」 「え?」 秘技女の子のフリ! 「女の子同士ならそんなに恥ずかしくないだろ?」 「それはそうですが……分かりました。着替えの時は、ご主人様を女の子だと思うようにします」 あとは俺が欲望に耐えきれるかだ。だが、見ないという選択肢はない! 威厳? 何それ、美味しいの? アンネリーセは着痩せするタイプだ。いや服着てても胸の主張は凄かったが、脱ぐともっと凄い。 FやGではない。おそらくその上のHはあるだろう。まさにHな体だ。 しかも腰のくびれがはっきりと分かるし、足も細い。それでいてお尻は形の良い安産型。安産型ですよ、奥さん。これ大事なことだから、2回言ったからね。 ああ、生きてて良かった。転生してるけどさ。 --- ## 016_罠解除は力業 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 017_一網打尽 ## ■■■■■■■■■■ 017_一網打尽 ■■■■■■■■■■ 2階層を駆け抜けた俺たちは、ボス部屋に辿りついた。 途中にいくつか罠があったけど、アンネリーセが魔法で全部解除した。半透明の手がにゅーっと出てきて罠を発動させて解除するとは思ってもいなかったけどさ。でも便利なものだ。 それから両手剣の英雄のレベルが4に上がった。いい感じでレベルアップしている。このまま順調に進んだらいいな。 2階層のボスはグレーターラットLv6とウッドゴーレムLv7の2体だ。 ウッドゴーレムはアッシュゴーレムよりも人型に近い形をしてる。もちろん、アッシュゴーレムよりも強い。 「行ってくる」 「はい。ご武運を」 こういうやりとりっていいよね。新婚さんみたいだ。 ミスリルの両手剣を構えて、グレーターラットに向かって駆ける。 グレーターラットが後方に下がり、ウッドゴーレムに隠れる。 まさかモンスターがそんなことをするとは思わなかった。 ウッドゴーレムが太い枝を鞭のようにしならせ、俺を攻撃してきた。 それをミスリルの両手剣で受け止めると、受けたところからぐにゃりと曲がって背中に当たった。 「くっ、やってくれる」 HPが15も減った。さすがはボス。だけど今の俺のHPなら10回耐えられる! ウッドゴーレムの陰からグレーターラットが飛び出してきた。 「舐めるなっ」 飛びかかってきたグレーターラットを右に避けると、ウッドゴーレムの枝が伸びてくる。 右に避けたら右から襲ってくるとは、なかなか連携が上手い奴らだ。 大きく後方に跳んでその枝を躱すとまたグレーターラットが攻撃してくる。 「鬱陶しいんだよ」 力任せに片手でミスリルの両手剣を振る。当たらなくていい、牽制して時間ができればいいんだ。 「ふーっ……」 1体1体の速さは大したことないが、連携が厄介だ。 「ご主人様。がんばってくださーい」 「おう。次で決めるよ」 アンネリーセの応援があると、不思議と力が出る気がする。ミニスカならもっと力が出る気がする。 力が出たついでに思ったが、連携を上回る速さを出せばいいんじゃないかと。両手剣の英雄なら、それができるはずだ。頼むぞ、両手剣の英雄! 「覚悟しろよ。ドブネズミと木偶の坊」 床を蹴り走り、グレーターラットがウッドゴーレムの陰に隠れようとするが、俺はその裏へと駆ける。 焦ったグレーターラット(焦っているかは分からない)の動きが止まった。今だ。 「とりゃっ」 グレーターラットを切っても俺は止まらない。壁際まで駆け抜けると止まらずに足に力を込め、直角に方向転換。迷宮牛革のブーツが悲鳴をあげているように鳴いた。 そのまま壁際を走りながら、モンスターの様子をチラッと見る。グレーターラットは居ない。さきほどの感触からは倒した実感はあった。これでも数十体のモンスターと戦ってきたのだから、そのくらいの感触は覚えた。 「残りはお前だけだぞっ」 足を止めず、左右に体を揺らしてウッドゴーレムに近づく。 「はぁぁぁぁっ」 枝が迫る。それは俺の眉間を穿つ一撃だ。だが、しっかり見れば躱せる。首を傾け顔をスウェーし、その枝を回避する。少し当たったようで頬がひりつく。 「こんにゃろぉぉぉっ」 顔の横の枝を無視して、俺はミスリルの両手剣を振り切った。 バリンッとウッドゴーレムが消滅する。 「きゃーっ、ご主人様ー」 アンネリーセの黄色い歓声。なんと言うか、こっぱずかしい。 格好をつけて手を振るべきか? いや、止めておこう。俺にそういうのは似合わない。 しかし、ボスがこんな連携をしたら、普通の探索者たちはかなりヤバいんじゃないか。 両手剣の英雄はかなり優秀なジョブだが、その俺でもあの連携には戸惑った。初見であんな連携されたら、かなりの被害が出てもおかしくない。 幸い、ボス部屋の中に遺品はない。良かったと言うべきだろう。 「ドロップアイテムはグレーターラットの尻尾とヒールリーフです。どちらもノーマルドロップ品です」 「そうそうレアドロップしないさ」 「残念です」 そうでもないと思うけどね。ヒールリーフはウッドゴーレムのノーマルドロップアイテムだけど、アッシュゴーレムのレアドロップアイテムでもある。 ボスであるウッドゴーレムを倒せば、それなりに高額なヒールリーフがドロップするのだから悪くない。 お金は稼ぎたいが、贅沢を言うと切りがないからレアドロップが出たらよいな程度でいい。 「もう一回ボスに挑んでもいいか?」 あいつらの連携を破るのは、何もスピードだけじゃない。そう思うんだ。 「もちろんです。ご主人様の気が済むまでボスを倒してください」 3階層に出て探索者にジョブチェンジしてダンジョンムーヴで2階層のボス部屋の前に移動。 おっと、ボス部屋の前に探索者たちだ。剣が3人、槍が2人の全員村人の5人パーティーが、扉が開いたボス部屋に入っていこうとしているところだった。 俺とアンネリーセがダンジョンムーヴで壁から出てきたところは見られてなかった。まあ見られても構わないが、ジョブ・探索者のダンジョンムーヴはあまり知られてないようだから騒ぎになると面倒だ。モンスターと間違われるのも嫌だし、見られてなかったのは良かった。 「池イカの姿焼き、食うか?」 「はい」 アイテムボックスから池イカの姿焼きを出して、1本を2人で分ける。ケチっているわけではないんだ。これからボス戦が控えているから、少なめにしているだけ。それにアンネリーセは若返って食欲が普通の女の子に戻った。ただそれだけなんだ。 30分くらい待っただろうか。ボス部屋の扉が開いた。待っている間にいちゃいちゃしたかったけど、ダンジョン内ということを考えて控えた。 それに俺たちの後ろに、男だけの6人パーティーが順番待ちをしている。さすがにその前でいちゃいちゃはできない。俺があっちの立場なら、アンネリーセのような可愛い子といちゃいちゃするのを見せられたら呪いたくなるからね。 ボス部屋の中に入ると、片隅に持ち主を失った剣が落ちていた。遺品だ。あの5人はボスに倒されてしまったのだろう。悲しい現実だが、俺にはどうしようもできない。これも探索者の常なのかもしれない。だけど、心が沈んでいくのが分かる。 いかん。いかんぞ。こんな場所で落ち込んでいたら、ボスどものいい餌食ではないか。 「ふー……」 よし。気分一新終了。あの無力感を怒りに変えて戦う力にするんだ。 「ご主人様。ボスが現れました。何やら表情が暗いですが、大丈夫ですか?」 アンネリーセを心配させてしまった。主人失格だな。 「なんでもない。大丈夫だ」 ミスリルの両手剣を構え、ジリジリとウッドゴーレムとの間合いを詰める。 グレーターラットは相変わらずウッドゴーレムの後方に身を隠す。 ウッドゴーレムまで7メートル。6メートル。5メートル。奴らはまだ動かない。 さらに進む。距離は4メートル。まだ動かない。 「ふっ、やっぱりここまで近づいても動かないか」 前回の戦いを振り返ると、ウッドゴーレムの攻撃範囲は3メートル。4メートルでは枝は届かない。そして枝の攻撃はかなり速いが、ウッドゴーレム自体の動きはかなり遅い。1メートルの距離を移動するより、俺を待つ戦い方だ。 俺の考えは正解だったようだ。 「それがお前の命取りだ」 ミスリルの両手剣を大上段に構え、スキルの発動を意識する。 「行けっ、バスタースラッシュ!」 ミスリルの両手剣を振り下ろし、半透明な刃を飛ばす。 ───ズシャッ。 ウッドゴーレムを切り裂き、その後方に隠れていたグレーターラットも切り裂いた。 このバスタースラッシュの射程は、剣先から5メートル。俺自身からではなく、剣先からだ。剣と腕の長さを合わせれば、2メートル近くになる。おかげでウッドゴーレムの後方に隠れていたグレーターラット諸共一撃で倒せた。 「こつさえ掴めばなんてことはなかったが、これも両手剣の英雄のおかげだな」 「きゃーっ、ご主人様ーっ、すごいですっ」 背中に抱きついてきたアンネリーセは、とても弾んだ声をしている。とても柔らかな感触を背中に感じ、俺はミスリルの両手剣を持った右腕を高らかに上げた。 「アンネリーセ。俺は勝ったぞ」 「はい。圧勝です」 両手剣の英雄と、俺の観察力の勝利だ。圧勝だ! この日の収穫は次のようになった。 ・ネズミの肉 24個 × 50グリル = 1200グリル ・鋭い前歯 3個 × 1000グリル = 3000グリル ・アッシュの枝 22個 × 100グリル = 2200グリル ・ヒールリーフ 4個 × 1200グリル = 4800グリル ・グレーターラットの尻尾 2個 × 1500グリル = 3000グリル ※総合計1万4200グリル(14万2000円相当) ※ヒールリーフはアッシュゴーレムのレアドロップであり、ウッドゴーレム(BOSS)のノーマルドロップ。 今回もボス部屋にあった遺品は持ち帰っていない。 俺たちの後ろに並んでいたパーティーが持ち帰るだろう。あの6人、俺たちが死んだと思っているんだろうな。 あと、1階層のボスであるグレーターラットのノーマルドロップ品よりも、2階層のボスであるウッドゴーレムのノーマルドロップ品の価値が逆転しているけど、これは間違いじゃない。 これはグレーターラットの尻尾のほうが需要があるからだ。HPポーションは兵士や探索者がよく使うけど、一般人はあまり使わない。でも食当たりの薬は誰彼構わず使われる。食当たりを予防や規制する法律がないのだと思う。 過去最高益の結果に、俺は自然と顔が緩む。 「アンネリーセ。今日はお洒落な食堂で夕食を食べて帰ろうか」 「とても魅力的なお言葉ですが、お洒落な食堂にこの恰好では入れません」 戦闘用の装備では、お洒落な店には入れないらしい。せいぜいちょっと良い店に入れるくらいなんだとか。 「それじゃあ、明日は休暇だ。買い物でもしよう」 「せっかくレベル5になりましたのに、良いのですか?」 「いいよ。明日1日休んだからと言って、レベルが下がるわけじゃないからね」 「分かりました。休暇をありがとうございます」 お礼を言われるようなことじゃないさ。 それに連続でダンジョンに入ったから、休みをとっていいと思う。 これからは3勤1休でダンジョン探索をしよう。 休みのないブラックな環境なんかにしない。もし3勤1休でも過剰労働だと感じたら、3勤2休にすればいいんだ。俺はホワイトなダンジョン探索者を目指すぞ。 --- ## 018_魔剣 ## 風雲急を告げる……? --- ## 019_アイテムボックスの検証 ## ちょっとした青春でしょうか? --- ## 020_これこそ一網打尽だった ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 021_アイテムボックスホイホイ ## 祝、日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング5位! ありがとうなのです! この調子で伸びたらいいなぁ。(⌒∇⌒) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 022_暗殺者 ## 祝、日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング3位! この調子でいってほしいものです。(⌒∇⌒) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 023_シャルディナ盗賊団 ## 祝、日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング2位! あと1つです。皆さん、応援よろしくお願いします!(*´▽`*) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 024_格闘バカ ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 025_嫌いだなー ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 026_種族進化 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 027_盗賊に囲まれた ## 祝、日間ファンタジー異世界転生/転移ランキング1位! 皆さん、ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします!(*´▽`*) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 028_色々画策します ## あうっ……1日天下……。 (*_*) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 029_愚行に愚行を重ねると ## か……返り咲きなの。 (*´▽`*) この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 030_モンダルク一家 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 031_シャルディナ盗賊団壊滅作戦(一章・完) ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 032・1_閑話・屋敷と使用人 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 032・2_一章のキャラ ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 032・3_一章の設定 ## おはようございます! 台風被害大丈夫でした? うちは大丈夫でした。(∩´∀`)∩ この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 033_トレジャーボックスモンスター(二章・開始) ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 034_魔導書を使ったら…… ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 035_エンチャント・ファイア ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 036_6階層を進んで ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 037_シャルディナ盗賊騒動後始末 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 038_呆然と立ち尽くす ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 039_名誉男爵の薦め ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 040_シゴキ ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 041_騎士ガンダルバン ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 042_俺のジョブは剣豪だぞ ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 2023/3/2 加筆をしました。 --- ## 043_ソードガーゴイル狩り巡回 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 044_公爵の頼み ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 045_首切りネスト捜索 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 046_ 下級悪魔パティス ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 047_聖剣召喚 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 --- ## 048_精霊召喚 ## この物語はフィクションです。 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。 ---